第15話 優子みつけた
暗黒の世界を背にしてサタンは佐藤優子を追っていた。上空から見て見るとこの雨と雨雲が世界にどれだけの影響を及ぼしているかがよくわかり、それを見て魔界の情景を想起するのはサタンだけではないだろう。
優子はビルデと別れた後、引き続き鞄を傘代わりにし、走りながら帰宅の途についていた。
この雨の中そんな恰好でいる女子高生も珍しい。おそらく周りの人からすれば二度見してしまうほどに奇怪な風貌だろう。
だが彼女の周りにはそんな好奇な目は一つもなかった。
やはりこんなずぼらな女も花の女子高生。鞄を傘にして泥まみれの靴で息せきながら走る姿を見られるのはさすがに羞恥心を感じるからか人通りのない道を選んでいる。そうサタンは思っていた。
しかしそうではないことをサタンは知る。
ビルデと別れて十五分は経っただろうか、優子の家にはいつまで経っても着かない。普通に歩いているのならまだしも、優子はジョギング、いやそれ以上のスピードで走っている。それも十五分もずっとペースを落とすことなく、なんならペースが上がっているのではないかとサタンは気づく。
はて、今どきの女子高生というのはここまで体力があるものだろうか。サタン愛読の少女漫画でのヒロインはマラソン大会で最後まで走ることもできず途中で意中の男に助けてもらうのが関の山。女とはそういうか弱い生き物だと思っていたがこの佐藤優子という女、なかなかに体力がある。
これも血の恩恵か。
しかしその考えも的外れだと分かる。
優子がおもむろに立ち止まる。
気づけばそこは川の堤防と堤防をつなぐ橋の上だった。休日には暇を持て余したお父さん方が釣りに興じるような大きな川が下にある。左右の堤防もアニメやドラマで通学路などに使われそうな雰囲気よろしい作りだ。
しかし今は太陽の光が一縷とも注ぎ込まないどん曇り。その堤防も二つの世界を分かつ真っ黒な壁のように見え、雨のおかげで勢いを増した川は濁流となりすべてを飲み込む三途の川とも形容できる。
そんな二つの世界をつなぐ橋の中間で佐藤優子は立ち止まった。
鞄を頭から退け、本来の持ち方に変える。
そして真っ黒な背景に溶け込むサタンを見据えた。
背筋が凍てつくほどの邪悪な顔で。
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