第4話 悪魔降臨
平日にもかかわらず多くの人でごった返す日本一の電気街にビルデとサタンはいた。
大勢の視線を集中させる。当たり前だ、一人は帽子をかぶりマスクをしたいかにもな不審者。片や骸骨の面をかぶった大男なのだから。
「うおおおお、なにこれこんな精巧なフィギュア見たことないよ! いくらだ……高い、ああでも切り崩せばいけないことも……んー、迷う」
「サタン様そんなものにお金を使っている暇はないんですよ。もしかしたら大門鈴鹿の説得のためにこちらに長く住むことになるかもしれないんですから」
「別にそんなものじゃないし……大門鈴鹿への手土産にどうかなと思っただけだし……」
「まだ会ったこともないのにそこまで考えられるなんて随分と気の利いた男ですね」
「……そういえばその女の特徴とか名前とかの情報ってどうやって手に入れたの?」
サタンは言いくるめられそうになったので、とっさに話題を変える。
「魔王ともあろう人がそんなことも知らないんですか。まあ偵察や雑務もろもろは私たち部下の仕事ですからね。主に大門鈴鹿の情報は人間界に放った魔界ガラスに任せてあります。顔の特徴やどこに住んでいるかの情報は大方これで十分取得できます。ただ難点なのは映像が送れないというところですね。現に中性的な見た目という情報はあるものの具体的な顔は未だ不明。こればかりは実際に会って確かめるしかないですね。……って聞いてますか?」
サタンは興味本位で被っていた猫耳を即座に外した。ヤギのしゃれこうべに猫耳、シュールだ。
「聞いてる聞いてる。見た目がわかってないんだよね。じゃあその魔界ガラスに連絡して今大門鈴鹿がいる場所教えてもらえばいいんじゃないの?」
「そうしたいのですが、昨日から魔界ガラスと連絡が取れないんですよ。何かあったのかもしれません。とにかくここだと目立つんで、さっさといきますよ」
ビルデはサタンの首根っこをつかみ引きずる。
それを電線に止まった白いハトが禍々しい真っ赤な目で見つめていた。
同時刻、鈴鹿たちは教室に戻り席に着いていた。
先ほどまで聞いていた校長の、この冬の寒さにも負けない熱い絆を築ける友人を作ってくれという訓示は果たして昨日徹夜をしてあの禿げ頭で考えたことだったのか、と文字通り不毛なことを考えながらも鈴鹿は一時限目の準備をする。
一体なぜ公民の教科書はここまで眠気を誘発する作用があるのかはなはだ疑問な鈴鹿は公民と同様に、少し苦手意識のある千代のことをパブロフの犬的法則で思い出す。
とても明るく、誰からも愛され、クラスメイトから好意的な笑顔を向けられるあの神崎千代を。
神崎千代は一か月前にこのクラスに転入してきた。教室に入っての第一声は「このクラスになじめるように努力しますんで、皆さんも協力してください」という他力本願なものだったことを鈴鹿はよく覚えている。そして千代は持ち前の明るい性格と社交性ですぐにクラスになじむどころか人気者になった。男子や女子問わずに接する態度にも好感が持てる。見た目とは裏腹に人を笑わせることが好きで、お笑い番組を見ることを趣味としている。
飾らないその姿には鈴鹿も好感が持てるところなのだろうが、なぜだろう。無意識に千代のことを心の底から受け入れることができなかった。それは自分とは真逆の性格だからだろうか。女の子女の子しているからだろうか。とりあえず、神崎千代のことはまだそこまで深く知らないからそういう風に思ってしまっているのだろうと、鈴鹿は考えるようにしていた。
千代はよく人に話しかける。麗華に対してもまるで旧知の仲のように話す。鈴鹿にもまるで竹馬の友のように話す。そのコミュニケーション能力を人見知りの現代の若者に少し分けてやりたいほどだと鈴鹿は思っていた。
千代は麗華とはまた違う理想の女性像だった。しかし理想がすべからく好感が持てるものかといえば、やはりそうではないことを鈴鹿はまだ知らなかった。
教室のドアが開かれ、まるで実験に失敗した科学者のような髪型を携えた定年間際の先生が入ってきた。
眠気を誘われ舟をこぐ羽目になる時間が始まりを告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます