第21話 真実に向かう
自分の住処である廃病院をそのまま背にして、何ら気にすることなく本来なら歩いていくが、今日は何故か後ろ髪が引かれる。だから、何もないだろうと感じつつも廃病院を振り返る。
「…………」
分かっていたが、そこにあるのはすでに潰れた廃病院だけで、怪しい外装以外は、特に怪しいものはなかった。……ただ、なんとなく、名残惜しさを感じる。まるで、もう二度とここには来れないような、そんな気分。だけど、いつまでもここにいるわけにはいかない。
充分に廃病院を眺めると、今度こそ振り返ることなく歩み始めた。
しばらく歩くと、今度はドロシーが消滅した場所である大きな十字路に辿り着き、立ち止まって辺りを見渡す。
ここではフレアからの二度目の攻撃に遭った。そしてドロシーが消滅して、シュウの圧倒的な強さを見せ付けられ、フレアもここで消滅した場所だ。
それだけではなく、死に神が救えるのは自殺者だけで、それ以外の死ぬような事象には干渉できない無力感を味わった場所であり、その二つの仕組みを上手く使って、自殺も事故も未然に防いでみせた場所でもある。
ここにも、良い悪いに関わらず思い出がある。
「…………」
ここでも、もう二度と来れないような気がして後ろ髪が引かれたが、それを振り切り、また歩き出し病院に向かった。
思い耽るように歩いてきたせいか、それなりに時間がかかってしまった。当然のごとく日はすでに暮れて夜だが、目的である病院に辿り着いた。
もう何度も何度も通いつめた病院。俺はすぐに入らずに、病院を前に立ち止まる。
……思えば、ここから俺の死に神としての人生が始まった。だからここは、始まりの場所でもあり、終わりの場所でもある――なんてな。
そうと決まったわけでもないのに、何となくそう思ってしまった。さっきから感じる感慨深さが、俺をそんな思考に追いやっているのだろう。
「行こう」
数々の思いを振り切るために口に出す。いつまでもこんな気持ちではいられない。俺はここに振り返るために来たわけではない。生前の記憶を確かめるために来たんだ。
アイが待っているのは病院の屋上だと思い病院に足を進める。
「ん?」
――と、不意に匂いを感じた。匂いといっても鼻から感じる匂いではなく、死に神が感じられる匂い――つまりは、自殺したいと思う人の匂い。
匂いは……病院の中からか……。ちょうどいいな、このまま病院に入って、その人の自殺を止めよう。
そう思い歩いていると、さっきから右腰に携えていた赤い鞘の刀が、急に存在感を現し、思わず立ち止まってしまう。
これは、自殺したいと思っている人を殺す時に使っていたシュウの刀だ。これを受け取ったことで、人を殺してでも人を救いたいというシュウの思いは引き継いではいるが……。
……悪いな、シュウ。出来うる限り、俺は人を殺したりはしない。だから、止めてみせる、自殺を……。
俺は自分のするべき役割を再確認すると、意を決して病院の中に入った。
匂いを頼りに進む。それはとても簡単なことだった。だからと言って、別に本当に何か匂うわけではない。……何というか、本能に訴えかけるかのように引き寄せている感じ。試してないが、……もしかしたら眼を瞑ってでも辿り着ける気がする。
――そして、
「……ここか……」
匂いのする部屋の扉を前にする。辿り着いたのはあの『面会謝絶』の病室。……この病院で俺が関わった病室は一つだけだから間違えようがない。ここに来るのはこれで、三度目だ。
……一回目は、単純にここに何かを感じて来たが、途中でガラスが割れるという邪魔が入って後にした。
二回目……の前に、そういえば、一度ここに来ようとしたことがあったな。
あの時は、一回目の時に何かを感じた怖いもの見たさからだったが……。まあ結局、アイに阻まれて病室どころか病院にすら入れなかったが。
そして二回目、まず行く前に見た病室での夢。あれは俺の生前の出来事だと思い、それを確認するために病院に向かった。病院の前にまたアイがいたが、アイの突然の逃亡に、病室に行けるようになった。
病室では、俺の知らない記憶が痛みと共に頭を巡ったが、それが意味しているのは、失った記憶が蘇ろうとしているからだろう。
さらに、病室で寝ていた女性。俺とあの人は、何らかの関係があると思う。ただ、今はまだ、どういった関係があったのかは分からないが。
そういえば、今までと比べて、今回はすんなりとここまで来られたな。何の障害もなく……。障害って言葉に、何度も俺をここに来るのを邪魔したアイの顔が浮かんだ。
……今思えば、一回目の病室に入ろうとしたのを止めたのもアイじゃないだろうか? 俺が病室に入るのを止めているのは彼女だけだし、可能性としては充分だ。
……だったら彼女は、どうして俺がこの部屋に入ることをそんなに止めたのだろうか――なんてことは、当に分かっている。
――彼女の目的は、俺に生前のことを思い出させないこと。
だから彼女は、この病室に入らせないように何度も邪魔していたんだ。ここには俺の生前に深く関係があるから……。
話してくれると言ってくれた手前、彼女から聴くより先に、盗み見るようなマネしたくはないが、今は……、
俺の死に神としての仕事を優先させよう。そう思い、扉に手をかけてスライドさせた。
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