第10話 鋼鉄のシュウ
シュウの登場は突然で、どこから現れたのか分からない。ただ物理的に考えて、こんな見通しのいい所から急に現れるなんて出来ない。だから、上から降ってきたという結論しかない。
それと、シュウの前にある剣が視界に入る。
……どうやったかは知らないが、突き刺さっている剣もシュウの仕業だろう。
「ふう」
当人であるシュウは、背中を向けたまま平然とタバコを吸っている。煙は空気中を舞い、しばらくすると見えなくなった。……こちらに関心があるのかと疑ってしまう。
「ドロシー、どうだ?」
背中越しの簡潔な質問で、天気の状態を聞くような、そんな口調だった。
「……ふふ、ちょっと……キツイかしら……」
無理矢理笑顔を作ってドロシーは言った。それをシュウは『そうか』と一言。
「あとは……任せたわ……」
お互いに主語の抜けたやり取りだが、この二人は相手が何を求めているのか理解しあっているのだろう。シュウはタバコをふかす。
「ふう。……引き受けた。最後の時まで、ゆっくり噛み締めろ」
そう言うと、シュウは左に歩き出した。……最後の言葉、どういう意味だ?
「……ぐっ、さっきの戦闘で気付いたのかしら? ……まあ、あいつが来たから……もう大丈夫よ、リン」
俺を安心させるかのように言うドロシー。自分がこんな……血まみれの状態でも、俺のことばかり考えてくれている。だけど、本当に大丈夫だろうか……。視界に入っているフレアは、今だ健在。移動するシュウを逃すまいと見ていた。
「いきなり剣が降ってきたと思ったら、今度は人が降ってきやがった。いったい何なんだ? あんたいったい……」
突然の襲撃、来襲に驚きながらも、フレアは体勢を整え状況を理解しようとする。
「――ん? ……タバコ。それにたくさんの剣。もしかしてあんた、鋼鉄のシュウか?」
フレアはまるで、会いたかった人に会えて喜んでいるような口振りだった。フレアの声が耳に届いたのかシュウは溜息をこぼれる。
「そんな風に名乗ったことはない。が、俺のことをそう呼ぶ奴はたくさんいるな」
自分が刺したであろうたくさんの剣を左に大回りして、フレアと対峙するシュウ。
――シュウとフレア、そして俺たちの位置は、三角形の頂点の位置になった――。
「ハッハー。やっぱりそうか。あんたのことも知っている。そこで倒れている魔女と並び、最強の位置にいる死に神。あんたも倒すことが出来れば……俺は、誰にも忘れられない男になれる。だからお前も死ね!」
フレアの右手が光り、殴るかのように腕を引くとそのまま拳を振るった。その右手からは、広大な火炎放射がシュウに向かって進む。シュウは一度こちらを見ると、すぐに向き直った。
……手助けは無用ってことか?
シュウに向かって炎が突き進んでくる。あの火炎放射には一度たりとも浴びてはいないが、生身で受ければ『熱い』では済まないぐらいは分かる。
――それなのに……それなのにシュウは、自ら炎に飛び込んだ。
「シュウ!」
思わず声が出るが返答はもちろんなく、その姿は炎の中に消えていった。
「大丈夫……能力自体はあたしと劣っても、それを補う身体能力がある。あいつに勝てるやつなんて……いないわ……」
俺の心配を酌んだのか弱弱しくそう言ったドロシー。言葉に活力はなかったが、自信は満ち溢れているように感じた。
反対にフレアは、炎に包まれたシュウを見て高笑いをしている。
「ハッハー。真っ黒こげだ! 自分から飛び込んで来るなんて何考えてんだ? まだ魔女の方がてこずった方だ――」
「……ん」
フレアの意味のない言葉を聞き流していると、炎の中の人影に気付いた。その人影は炎の中を突き進んでいく、フレアに向かって――。
「――これで、俺が最強だ」
フレアはまだ気付いていない。それを知ってか知らずか、炎の中の人影は、フレアという目的地に辿り着き、炎を突き抜けた。
その瞬間、その人影は誰かすぐに分かった。……まあ、分かるも何も、予想通りのシュウだったが、一つだけ予想と違うことがあった――。
「なっ!」
フレアもさすがにシュウに気付いたようで驚愕していた。
――それもそうだろう。炎の中から無傷……どころか、衣服でさえも燃えた形跡がない男が飛び出したのだから……。
シュウは炎を突き抜けるとフレアに向かって進んでいく。フレアはシュウの進行を止めるどころか、微動だにで来ていなかった。それを的確に狙うシュウ。
「ふっ!」
シュウは右腕を思いっきり引き絞り切ると、さっきのお返しとばかりに、そのまま右拳を、フレアの左頬に振り切った。
「ぐわっ!」
まともに食らったフレアは、倒れ込むどころではないほど吹っ飛ぶ。それを確認したのか、ドロシーが静かに笑う。
「……言ったでしょ? ……最強だって。……あたしも最強なんて言われてるけど。……あたしはあいつに……傷一つ……つけたこともないんだから……」
殴り飛ばした後、シュウは体勢を整え、タバコを右指に挟み紫煙を吐いた。
「……あまり、大人を舐めるんじゃねぇぞ、ガキが……」
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