第29話 侵攻
天界から魔王城に戻ると、モディアスが玉座の前で拝礼して言った。
「戻られたのですね? アレン様」
「所用でな。世話をかけた」
「いえ、よろしいのです。帰られて早々ですが、よろしいでしょうか?」
「門番の話だな。汝の望む職を言うが良い」
「いえ、それではなく」
「ぬ?」
モディアスが顔色を変えずに言った。
「人間が、魔族に戦争を仕掛けてきました」
「ふははははは!! 魔王交代と我の不在を狙ったか! 案外、人間も捨てたものではないな!」
「楽しそうですね」
「うむ。汝は?」
「闘争は、愉悦ですので」
「ならば良し! 状況は?」
「ゆっくりと、しかし着実に魔族の領地が人間によって切り取られています。最初はただの小競り合いかとも思いましたが、勢いが衰える様子はございません。今では、宗教国家レミュゼルをはじめ、人間の国の大半が、この戦争の支援を始めました」
「くくく。人間にしては、珍しくまとまるではないか。それで、今回の侵攻の首謀者は?」
「勇者ロムルスとその一味」
「「「!?」」」
モディアスの言葉に、傍で話を聞いていたトノカが言った。
「なにかの間違いじゃ~? あのひとたち、弱いし」
「確かにな。レベルは1に戻したはずだ。こんな短期間で、人間の先頭に立てる力を持つとも思えぬ」
「何か、理由がありそうですね」
「クス。単に、担がれているだけかもしれないよ?」
「担ぐなら、もう少しマシな神輿もあろう。何にしろ、調べてみるか」
書庫に行こうと玉座から立ち上がると、エルミアが言った。
「わたくしに、ひとつ、心当たりがございます」
「乗ろう」
「早いわね!? ⋯⋯こほん、早いですわね」
「現状、有用な手がかりは無い。汝の話に乗ろう。話してくれぬか?」
エルミアが少し考えてから、話し出した。
「大教会の書庫の書物に、今の状況と似通った神話を見たことがございます。内容は、弱き者が他者を喰らい成り上がる話」
「クス、教会の神話か。面白そうだね」
「ですが、神話とは、あくまで物語ではないのですか?」
「教会の神話は、かつて現実にあった出来事を物語にしていることが多いのです。つまり、神話の元となった技や魔法があるはずですわ。それを調べれば、今回のことがわかるかもしれません」
「よーしっ、じゃ、いこうっ!」
「うむ。では、目的地は宗教国家レミュゼル。皆、良いな?」
4人が頷く。
「クス。じゃあ、ボクが一人ひとり転移魔法でレミュゼルまで飛ばすよ」
「ですが、大陸の北端の魔王城から大陸の中心のレミュゼルですと、かなりの距離がございますわよ?」
「なに、心配無用さ。全盛期ではないけれど、これでも一応、魔王をやっていたんだ。ここからレミュゼルまでなら、一人ひとりであれば、一瞬で正確に飛ばせるよ」
「化け物ですわね⋯⋯。こほん。では、お願いいたしますわ」
アガリアがエルミアに手で触れると、エルミアの足元に魔法陣が描かれ、光とともにエルミアが魔法陣の中に姿を消していく。
エルミアに続けて、トノカとティナを転移魔法で飛ばすアガリア。
「さて、次は我の番か」
「クス。その前にひとつ、キミに言っておきたいことがあってね」
「ぬ?」
アガリアが我の手を両手で握る。
「アレン。キミも、気づいているんだろう? 伝承法は、無敵の術じゃない。このままだと、きっとキミは――」
「くくく。その時は、我の意思を継ぐものが、我の理想を為してくれる。我は、その可能性を信じているぞ」
「皆、悲しむだろうね。少なくとも、キミの勇者と魔王は」
「ふっ。せいぜい、心するとしよう」
「ああ、そうしておくれ。では、行こうか」
我とアガリアが光に包まれ、体が宙に浮かぶのを感じた。
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