第30話 教会

 アガリアの転移魔法の光が晴れたかと思うと、レミュゼルの街並みに立っていた。


 すぐにトノカとティナが現れ、少ししてアガリアとアレンが転移してくる。


「な、なに、あれ!?」


 アガリアの白翼を見て通行人がギョッとしていた。


「アガリア~。その翼、めだってない~?」


「おっと。これは失礼」


 アガリアがパチンと指を鳴らすと、アガリアの翼が一瞬で消える。


「なにそれなにそれっ! すっごい~!」


「クス。変身魔法の一つさ。興味があるなら、トノカ君にも教えるよ?」


「変身なら、トノカもできるよ~!」


「お二人共、ここではお止めくださいまし。それでは、大教会へ向かいますわよ」


 馬車を呼び止め、大教会まで乗る。


 大教会に着くと、入口で名乗る。


「聖女エルミア様!? 魔王討伐から戻られたのですね! 魔王撃破の報は教会まで既に届いております。さあ、ルドワン大司祭がお待ちですぞ!」


「申し訳ございません。長い旅路が終わり、皆様お疲れのご様子。大司祭様へのご報告の前に、少しお休みを頂きたいのです。そのように、大司祭様にはお伝え下さい」


「かしこまりました。では、ゆっくりご静養なさって下さいませ」


「ありがとうございます」


 お辞儀して、大教会に入り、地下の書庫の灯りを灯す。


「うわあ~、本がいっぱい! ねえねえ、トノカ、寝てていい?」


「駄目だよ、トノカちゃん。ですが、この蔵書の量は少しびっくりしてしまいますね」


「うむ。魔王城の蔵書にも引けを取らぬ。流石教会の書庫といったところか」


「クス。ああ、本がいっぱいだぁ。片っ端から読み漁りたいところだけれど、目的の本を探さないとね。エルミア君、案内をお願いするよ」


「かしこまりました。こちらですわ」


 4人を該当の本棚に案内する。


 手分けして、本棚の蔵書を一冊ずつ確認しながら、昔見た書物を探す。


「エルミア~、それっぽい本はないよ~」


「わたしもです。色々な神話の本はありましたが、エルミアさんのお話しされた内容のような本は、残念ながらありませんでした」


「⋯⋯おかしいですわ。以前、この書庫で確かに見ましたのよ?」


「くくく。これは、隠されたか処分されたか」


「情勢を見るに、その可能性は高いだろうね」


「教会が、今回の戦争に根本的に関わっている可能性が高い。そういうことですね?」


「うむ。今だ推測の限りは出ぬが、おそらく、勇者ロムルスらに力を与えたのは教会で間違いないだろう」


「目的は、魔族の討滅と、教会勢力による大陸の統一。クス、何千年経とうと、生き物のやりたいことは大して変わらないね」


「より良い世界のためならば、それも良かろう。だが、勇者ロムルスを旗として掲げるほどだ。統一後の絵は、容易に描ける」


「止めましょう。わたしは、無益な戦いの中で傷つく人を見たくはありません」


「でも、目的の本はなかったけど、だいじょうぶ~?」


「それは⋯⋯」


 皆で考え込んでいると、書庫に懐かしい声がした。


「姉様? やはり、戻っていらしたのですね!」


「ルミール!? 出歩いて大丈夫なのですか?」


「ごほっ。体調は、安定しております。先程、姉様が戻られたと守衛が噂しておりましたので」


「部屋で待っていたら、わたくしの方から出向きましたのに」


「そんなに心配なさらなくても、わたしは大丈夫です。姉様、こちらの方々は?」


 ルミールに4人を紹介する。


 ルミールが感心しながらも、思い出したように言った。


「そうだ。姉様、お話があるのです」


 ルミールが周りに誰もいないことを確認すると、小声で話し始める。


「ここ数日、大司祭ルドワン様の様子が少しおかしいのです」


「おかしい、とは?」


「何か、威圧感が増したというか。他にも、妙な3人と教会で会っております」


「勇者ロムルス達だろう。これは、黒だな」


「ルミール。知っていたらでよろしいですわ。ルドワン様は、この書庫で何か書物を探しておりませんでしたか?」


「探していたかはわかりませんが、妙な3人と会っていた際、ルドワン様はある一冊の本を携えておりました。題名は、『吸収の法』」


「!?」


「クス。随分、楽しそうな題名の本だね。内容は、わかったりするかい?」


「以前、書庫で同じ本を読んだことがあります。内容は、自らより弱い者の血肉を吸収し、己の力とする禁忌の秘術」


「でも、そんなあぶない術なら、その本をだれでも読めるようにしてるのっておかしくないかな~?」


「確かに、そうですね」


「簡単には読めても、今まで使われてこなかったのは、この術には致命的な欠点があったのです」


「欠点⋯⋯? ルミール。それは、一体何なんですの?」


「この術には、触媒が必要なのです。計り知れない、闇の魔力を宿した触媒が。ただ、人の世に、それほどの魔力を有した闇のアイテムは、これまでに存在しなかったのです」


「闇のアイテム⋯⋯?」


 考えていると、アレンとティナとアガリアが同時に閃いた。


「「「⋯⋯あ」」」


「? どうかいたしましたの?」


「うん、心当たりがあるなあ~、ってね」


「本当ですの!?」


「⋯⋯はい。多分、勇者ロムルスがアレン様から奪った装備品」


「……まさか、夜の衣以外にもありましたの?」


「ふはははははは!! 済まんな!!」


「済まんな、じゃね~~~っ!! ……こほん、済まんな、じゃありませんわ。つまり、アレン様から奪った闇のアイテムを持っていたロムルスと、吸収の法によって力を得たかったルドワン様の思惑が合致し、今回の戦争が起こったということですわね?」


「これまでの情報を統合すると、そういうことになるね」


「ああ、ここにいらっしゃった!!」


 書庫に慌てた様子で司祭が駆け込んでくる。


「? どうかいたしましたか?」


「大司祭様が、勇者様をお呼びです。魔王撃破の祝言をお送りしたいと」


 ティナがアレンを見た。


「アレン様、行きましょう」


「くくく、我が勇者も成長したものだ。敵の大ボスの招集だ。こちらから出向いてやることとしよう」




魔王アレン  Lv453

勇者ティナ  Lv423

竜人トノカ  Lv320

聖女エルミア Lv103

天使アガリア Lv310


司祭ルミール Lv17

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