小さなお客さん

 お父さんがいつも行ってるコーヒー屋さんに今日は行くことになった! お母さんは、「いつもお世話になっているから、お礼しに行かないとね。それに、お父さんだけ独り占めはずるいわ。私もカフェモカ飲みたい」と言っていた。おせわってどんな意味かわからないけど、後半がほんとに言いたいことだよね。お母さん、私わかるよ!

 お店の中に入ると、すごい! 真っ白で、とっても明るくて、絵がかっこいい! 天井からついている光が、お星様みたい。すごい、すごーい! なんだかいつもいる場所と違う感じ。大人がいる場所って感じだ。

 お母さんは、「あら、予想以上におしゃれなカフェね」だって。

 

「いらっしゃいませ! あら、かわいいお客さん。お好きなお席へどうぞ」

 お母さんが、「カフェモカと、ココアをください」と言った。

「ええ? 私もかふぇもかっていうの飲みたいー! お父さんとお母さんだけずるい」

「あなたにはまだ早いわよ」

「ええー! 早くないよ」

 すると店員さんが、「じゃあ小さなお客様には、特別にあまーいココアを作っちゃおうかな。お客さんだけの特別メニューだよ」

 わあ。特別だって。特別って、なんだかステキだ。私はついつい頷いた。

「店主さん、わざわざありがとうございます。あの、いつも夫もお世話になっていて」

「あ、もしかしていつも月曜8時にカフェモカ頼むお客様? 私の方がいつも旦那さんに励ましてもらってるんですよ。こちらの方がお世話になってるぐらい!」

「あ、夫には妻が来たって言わないであげてください。大切な場所を取られたって思われたら嫌なので」

「ええ? そうですか。じゃあ月曜以外にいらっしゃってください。奥さんにも大切な場所になってほしいなあ、なんて」

「ふふっ、そうですね。夫がここに通う理由、わかった気がします。私も秘密で通おうかな」

「それもいいですね! じゃあカフェモカとココア作ってきますね」

「あ、あとマフィンもお願いします」

 んんー? なんで秘密なんでろう? お父さんに言ったらダメなの?

「お母さん、なんでお父さんに秘密にするの?」

「お父さんはね、秘密にしてたからここのカフェモカが美味しかったのよ」

 うーん、なんだかわかるようなわからないような。


「ふふっ。あなたも飲んでみたらわかるわ。今日のココアはお父さんに秘密にするの。そうしたら特別な味がすると思うわ」

「そうなの? じゃあお父さんに秘密にすれば、このココアはとっても美味しいココアになるってこと?」

「そうよ。だからお父さんには秘密で飲みましょう」

 

 ちょうどココアが届く。他のお客さんの真似をしながら、かっこよくココアを飲んでみる。

「どう? 特別な味、した?」

 なんだか悪いことしてる気分。でもそれが、秘密の味ってことか。そうして特別になるんだ。

「あまいチョコレートの味。これが、秘密の味ってやつか」

 周りのお客さんに笑われた。でも、嫌な気分じゃない。いっつもお父さんは秘密を楽しんでたんだな。ずるい!

 これからは、私とおかあさんの特別な秘密の場所になるんだ。えへへ。

 もう1回ココアをぐびっと飲む。うーん、うまい!

 

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