小説家
月曜朝8時、ふらりと目に入ったカフェへお邪魔する。
「いらっしゃいませ! 一名様ですか?」
「はい。あの、デカフェありますか?」
「ありますよー。お好きなお席へどうぞ」
おしゃれな雰囲気だ。意外にもこの時間からお店にいる客は多い。
「俺のホームページのおかげっすよ! 鼻が高いっす」
「おいおい、こないだクビになって随分落ち込んでたのに、顧客が一人ついただけでよくそんな大口叩けるな」
「まあまあ、いいじゃない。明るい方がいい方向にいくわよ。あなたもそう思うでしょ?」
「うーん。そうですねえ。私の絵画をまとめたホームページでも作ります? 私そんなにお金出せないですけど」
「え!? まじすか」
聞き耳を立てていると、どうやら僕だけが新規客のようだ。なんだか急に居心地が悪い。
「お待たせしましたー! デカフェのコーヒーです」
「ああ、ありがとうございます。あの、みなさん常連の方ですか?」
「そうですよ。みなさん月曜の8時ごろにいらっしゃる方々ですね」
「あ、そうなんですか。なんだかちょっと僕、邪魔かなとか思ってしまって」
しまった。こんなこと言うべきではなかった。嫌味みたいになったか? 店主はきょとんとしながら、「お客様も常連になりますか? 月曜の楽しみになりますよ。おすすめです」と言った。
そんなつもりじゃなかったが、予想外の返答だったので面白くて、「それもいいですね」と言ってしまった。
「お、あたらしいお客さんじゃないですかぁ! 俺のホームページから来ました?」
「いやいや、私のブログを見て月曜8時にいらっしゃったんですよ。そうに決まってます!」
「そのブログも俺のホームページから作ってるんすよ! 俺のおかげっす」
「そんな言い争いすんなよ」
「お客さん! どうなんですか、どっちなんですか」
勢いに押されて正直に答える。
「いや、どっちもみてないです。強いて言うなら窓から見える絵画が綺麗だったからかな?」
彼らは顔を見合わせて、「俺らの負けっすね」「私たちの負けだね」と口を揃えて言った。
スケッチブックを持っている女性が、控えめにガッツポーツをしていた。
「ははっ。コントみたいっすね。なるほど、月曜8時に毎週こようかな。なんだか楽しそう」
これが一週間の楽しみになるのも、悪くない。コーヒーを手に取って、一口飲む。なるほど、コーヒーもうまい。
今日もひなたカフェに向かう。
「いらっしゃいませ。あ、本当に常連になってくれるんですね! ありがとうございます」
店主は俺を覚えているようだ。気恥ずかしいような、嬉しいような。でも、きっとこれが日常になっていくんだな。
今日はこの間も絵を描いていた女性に話しかける。
「こんにちは。よければ僕の小説の表紙を書いていただけないですか?」
彼女の目がキラキラと輝いている。いい返事をもらえそうだ。
「あの、私でよければ……」
ありがとうと言おうとする前に、みなさんが話しかけてくる。
「小説家だったんですか!? まじかっけえっす!」
「なんてお名前で活動してらっしゃるんですか?」
「えー!? すごいすごい! 小説家の方に初めて会った。こんなことあるんですね。ここで働けて良かったぁ」
「とっても素敵ね、ぜひ小説を読んでみたいわ」
「わあ! 私も小説読んでみたいです。こんなご縁があるなんて」
そんなに一気に話しかけられても、聖徳太子じゃないんだから。でも、小説家であるだけでこんなに喜んでもらえるなんて、嬉しい話だ。
小説を書いていてよかったな。ここでの執筆は捗りそうだ。いつかこのカフェをモデルにした小説書こうかな、なんて。
とりあえず画家の彼女と連絡先を交換して、席に戻る。
「お待たせしました、デカフェのコーヒーです」
うん、やはりコーヒーがうまい。この人たちと一緒に飲むコーヒーは格別だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます