プログラマー

 今日も俺はひなたカフェの窓側の席に居座る。

 ここでパソコンを開いてプログラムを書くことが、朝の日課になっていた。

 それに月曜はやる気が起きない。

 自身を奮い立たせるためにも、月曜日は必ず朝8時にカフェへ来ることを日課としていた。


 それが、今日は全くパソコンを開く気にならない。頼んだエスプレッソが来るまで机に突っ伏していると、店主の声が上から聞こえる。

「あら? 珍しいね。今日はお仕事しなくていいの?」

「ボイコットなんす」

「ええ!? ボイコット!?」

「そうっす。給料あげてくれってガチで言ってるんですけど、全然あげてくれなくて。幼稚な行動ってわかってるんすけど……」

「いやいや、そんなことないよ。立派な意思表明だよ」

「そうっすかね? 給料これであがるといいんすけど……」

「きっとあがるよ。エスプレッソ飲んで元気出して!」

 そうだ、給料をあげるために大切なのは、強い意志だ!

 カップをぐいっと一気に傾けて、エスプレッソを飲む。苦い。


 今日、俺は俯きながらひなたカフェのドアを開く。

「いらっしゃい! あれ? どうした? 調子悪い?」

「……店主さん……。俺、クビになっちゃいましたあぁぁあ!」

「ええ!?」

「ボイコットしてたら、同じ給料で違うやつ雇うって言われて……。うわあああ!」

「落ち着いて、一旦座ろう? エスプレッソでいい?」

「はい……」


 俺がトボトボと歩いていると、皆が声をかけてくれる。

「絵でも描きますか?」

「俺、美的センスゼロっす……」

「そんな落ち込むなよ。お前の技術は無くならないんだ。フリーランスでもやってけるんじゃないか?」

「そうっすかね……」

「人生山あり谷ありよ」

「おばあちゃんが言うと説得力ありますね……」

「無職仲間じゃん! いえーい!」

「おねいさんだけっすよ……。励ましてないの……」

 俺は絶望した顔で皆に返答していく。


 店主さんがエスプレッソをもってやってくる。

「例えばだけどさ、ホームページとか作れるの?」

「ホームページぐらい作れますよ……。俺だってそれぐらいできます……」

「じゃあさ、ひなたカフェのホームページつくってよ!」

「え!? 仕事くれるんすか!?」

 おお、早速お客さん第一号ができたぞ! なんか俺、フリーランスでもやってけるかも!

「早速今から作りますわ! 楽しみにしといてください!」

 うおおおおお、やる気が出てきたぞ!


 ホームページ完成したぞ! 今日はウキウキな気分だ! カフェの扉を力強く開ける。ドーン!

「店主さん、ホームページ完成しました!」

「ドア壊れるからその開け方やめてね! みせてみせて」

 俺は自信満々でホームページを見せる。

「わあ、すごいじゃん! オシャレでちゃんとしたホームページだよ」

「へへっ。 これでお客さんめちゃめちゃ来ますよ! そうしたら、俺のおかげなんで、これからコーヒー代チャラにしてください」

「いやあ、それはちょっと……」


 ふふっ。俺の人生はまだまだこれからだ。今日もエスプレッソを一気に飲む。

 「苦い!」

 「砂糖入れたら?」


 〜番外編〜

 プログラマーのお客さんのホームページの効果か、本当にたくさんのお客さんがいらっしゃるようになった。

 店主がカウンター席の女性に声をかける。

「うちでアルバイトしない? 一人だとキツイわこれ」

「まじっすか!?」

 

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