職探し中の女性

 今日も月曜日だ。結局先週も仕事は書類選考落ち。今週こそ、仕事を見つけるぞ! そんな今週一週間の自分を励ますために、朝8時にひなたカフェへ向かう。


 「いらっしゃい〜! 今日もアメリカーノでいいのかな?」

 「私の好きなコーヒー覚えてくれてありがとうございます! アメリカーノでお願いします!」

 

 私はいつものようにカウンター席に座る。今日はまだ、認知症のおばあちゃんは来店していないようだ。おばあちゃんは、いつも私の隣に座って私の愚痴を聞いてくれる。私は話好きで、おばあちゃんは聞き上手だから、いいコンビだと思う。

 

 最近、カフェに新たな絵が飾られた。作者の女性は、それからより明るくなったように思う。

 それに、いつもスーツのお兄さんは、ブラックコーヒーからカフェモカになった。こないだ、初めてこちらをみて、「おはようございます」って挨拶してくれた。


 「なのに! 私はなんで変わらず仕事探ししてるの〜!?」

 「どうしたの。仕事探し疲れちゃった?」

 店主さんはコーヒーを作りながら話に応じてくれる。

 「もう疲れたなんてもんじゃないですよ! 疲れ果ててます! なんで仕事落ちてばっかりなんですかぁ」

 「う〜ん。仕事探しって難しいよね〜」

 「難しいなんてもんじゃないです、激ムズですよ!」

 店主さんは私の勢いについていけないようで、苦笑いだ。


 「まあ、職歴もめちゃくちゃになってるし、面接も苦手だから、原因わかってるんですけどね。この間なんて、なんでこんなに職歴が多いんですか? って面接で聞かれちゃって。そんなん私が知りたいよぉ!」

 店主さんが何かを話そうと口を開いたのはみえたが、もう私は止まらない。

「志望動機はなんですかって、そんなのお金以外に理由ある人いるの!? 面接なんて、嘘つき大会なんだぁ」

「まあまあ、一旦アメリカーノ飲んで落ち着こ」

 アメリカーノが到着した。すっきりした味が、月曜朝の私を一新されてくれる気がして、好きだ。


「まあ、私も仕事探ししてた時あったよ〜。自分がやりたいことってなんだろって思うと、なかなか動けないんだよね」

「店主さんもそんな時期あったんですか?」

「あったよ〜。でも、みんなの居場所を作りたいと思って、カフェやってるんだよね。何か、やりたいこととかないの?」

「うーん。私は仕事を選べる立場にないっていうか……。逆に私を雇ってくれる仕事があるんだったら飛びつきたいというか……」

「そっかあ。じゃあやっぱりいろんなところに応募してくしかないのかな?」

「そうですねえ。やっぱそれしかないですよねぇ」

 二人で頷いていると、スーツのお兄さんがこちらを凝視していることに気づく。

 なんだ? 服表裏逆に着たか? 寝癖でもついてるか? 唇に朝ご飯の納豆つけてきたか? お兄さんを見ながら、頭や唇を触って確認する。

 「いや、話勝手に聞かせてもらったんですけど、うち事務職募集中なんで、応募してみます?」

 「え!? いいんですか!? ぜひ、ぜひ応募させてください!」

 店主さんが呆れたように呟いた。

 「本当に、どこでもいいんだね……」


 でも、カフェで仕事見つかるなんて、ドラマみたいじゃないか!? これは、いける気がする! 運命感じるぞ!


 一週間後の月曜、今日もひなたカフェのドアを開ける。

「いらっしゃい! あ、仕事どうなった?」

「落ちました……」

「あらら……。まあアメリカーノ飲んで元気だそ! 今日はおまけでマフィンもつけちゃう」

「うわあ! 店主さん、天使に見えるよ!」


 カウンター席には、おばあちゃんが座っている。

「おばあちゃん! 先週どうしたの? 私は変わらず仕事探し中だよ!」

「先週? 覚えてないなあ。でも多分デイサービスってやつだね。それよりまだ仕事見つかってないのかい。不思議だねえ。こんなに明るくていい子なのに」

「うわあ! おばあちゃん、仏のようだよ!」

「まだ死んでないよ! でも、焦る必要はないさ。今は、休む期間なのさ」

「もう十分休んだけどなあ。でもそうだな。こうやって新しいカフェ発見したし、おばあちゃんにも会えたし、悪いことばっかじゃないよね」


 スーツのお兄さんも私の元に来て、申し訳なさそうに謝った。

「力になれなくてすまんね。おねえさん、明るいし、うちの事務所を明るくしてくれると思ったんだけど」

「その言葉だけで十分です……。ありがとうございます……」

 

 絵を描いているお姉さんも気にかけてくれた。

 「一緒に絵、描きますか? スッキリするかも」

 「いや、流石にお姉さんの隣で描くのは勇気いるんで、遠慮しときます……」


 そんなやりとりをみて、おばあちゃんは口を開く。

「でも、こんな優しい人に囲まれて、あんたは幸せもんやね。あんたはきっと大丈夫や」


 そうなのかな? でも、私の居場所を見つけられたことで、休める場所を見つけられたことで、大きく羽ばたくことができるのかも。

 いつか、就職決まりましたって言って、みんなに祝ってもらうのもいいな。


 今日もアメリカーノが美味しい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る