第3話

 翌日、いつも通り受付に捜査官証明書を提示して第八部署へ向かおうとしたテオに受付嬢は束ねられた書類を手渡した。

 

「こちらをお渡しするようにと、室長が」

「分かった、ありがとう」

 

 エレベーターに乗り込み、手元の資料へ目を通す。どうせろくな事件ではないだろうと思っていたのだが、その調査報告書は昨日ウェイトレスが話していた連続猟奇殺人事件のものだった。思わず資料を二度見してしまう。

 

「マジかよ……」

 

 まさか左遷されて早々にこんなチャンスが舞い込んでくるとは。だが早すぎる。まだ第八部署全ての悪魔と挨拶も終わっていないのだ。とはいえ、それを理由にして調査不能となればテオの評判はさらに悪くなる。


 まずは事件内容を悪魔と共有し、協力的な悪魔と捜査を始めたい。そんな悪魔がいるかは、分からないが。

 

「でもランシール辺りなら飯で釣れそうだよな」

 

 そんなことを考えながら扉を開けたテオに向かって、渦中のランシールが全速力で突っ込んできた。

 

「テオー! 今日もご飯! 行く!」

「おっと、ランシール、ちょっと落ち着いてくれ。今日からは仕事があるんだ」

「何でよ! お腹すいた!」

 

 昨日に引き続き癇癪を起こしかけるランシールをどうなだめるか考えていると、金髪の少女が背後で口を開く。

 

「ラン、やめなさい」

「ウィネットお姉ちゃん……」

「そもそも誰なの、その男は」

 

 明らかにこちらを警戒している様子の少女はランシールを引き離してテオを睨み付けた。

 

「テオだよ。ここで働くことになった捜査官なんだって」

「そう。不運な男ね。こんなところに配属されるなんて。一体何をやらかしたのかしら」

 

 金髪の少女、ウィネットはランシールを連れてテオに背を向ける。

 

「……」

 

 一言も話せないまま全身で拒絶を露にされたテオは、気まずくなりながら誰も使っていない机と椅子を見つけて腰を下ろした。少し離れた場所からは頬杖をついている少女の敵意に満ちた視線を感じる。

 

(やっぱランシールが扱いやすいだけだったんだな……)

 

 黙って捜査資料を読み込みつつ、ランシールの姿を探した。今のところ、唯一まともに会話ができているランシールと捜査に向かいたいのだ。だがランシールの近くには常にウィネットがおり近づけない。

 

 仕方なく一人で捜査に繰り出そうと立ち上がったテオにランシールが飛び付いた。慌ててウィネットが止めるものの、ランシールは彼女の方を見ようともしない。

 

「テオ! どこ行くの? 私も行く!」

「駄目よ、ラン! こんな男と……」

「うるさいうるさいうるさい!」

 

 ウィネットの腕を振りほどき、ランシールがテオの持つ資料を覗き込もうと背伸びをする。

 

「お仕事?」

「あぁ、最近首都を騒がせている連続殺人事件を調べに行くんだ。一緒に来るか?」

「行く!」

 

 本人から言質を引き出すことに成功したテオはそそくさと必要書類をまとめて第八部署を出た。

 

「ランに何かしたら殺すから」

 

 ボソリと呟かれた殺意に満ちたウィネットの脅迫に、テオは冷や汗をかきながらも小さく頷いた。

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