遭難二十日目

 僕の手に皿が渡されて、その人はどこかへ行った。

 いつもと部位が違うのか、歯応えのある肉と豆腐のように柔らかい肉があった。僕はその美味しい肉をゆっくり味わいながら食べきって、眠る。左腕と目以外はもうすっかり良くなっていた。健康とは、こんなにも体が軽く痛みのないことなのだと生まれて始めて知ることが出来た。

 次の朝は、青空に目を覚まされた。この目に、青色が写る。その事実が嬉しかった。ついに目が見えるようになったのだ。左腕も動くようになっていた。

 ここは美しい島だった。サンゴの死骸で出来ているのであろう真っ白い砂と深い青の海のコントラストが綺麗だ。島にはあまり見たことのない、背の高い南国の植物が生えている。小さい島のようで、一日もあれば回れそうだった。

 僕を助けてくれた人は誰だったのだろう?

 進む方向を見据えて足を動かすと、思った通りに足が動いて走ることが出来た。

 昔のように、体が動かせる。不思議だった。食べるごとに回復していくあの肉は一体なんだったのだろう?

 僕を助けた人は姿を表すことは無かった。

「どこに行ったの?」

 少し前であれば、こうして動けるだけで嬉しかったのに、僕には更に欲が生まれていた。一緒にいた誰かと走ったり、あの美味しい食べ物を食べてみたいという欲だった。

 島を回ってみたけれど、ここは無人島のようだった。確かに人はいたはずなのに、どうして姿を見せてくれないのだろう。どこに行ってしまったのだろう。

 ただ、貝殻で出来た皿だけが残っていた。

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