第3話
「きっといつか、幸せを掴めるから……諦めないで、頑張るんだ」
かつてユアン兄さんから託された言葉を振り返る。
きっと似た状況から連想したのだろう。
廃工場を飛び出した私は、追っ手の気配を探りながら逃走していた。
視線を巡らせながら路地を駆け抜ける。
(ユアン兄さんはいない。七年前に死んだんだ)
殺し屋の兄妹として、私達は細々と活動していた。
そんなある日、ユアン兄さんは私を庇って命を落とした。
以来、私は一人で殺し屋を続けている。
元々、私達は三人兄妹だったらしい。
レオという名の長男がいたそうだ。
私が物心つく前の話だが、レオ兄さんは狙撃されて死んだという。
そういった過去はユアン兄さんから聞いた。
しかし一方で、ユアン兄さんは現実から目を背けていた。
ふとした瞬間に、レオ兄さんの幻影を見ていたのである。
あたかもレオ兄さんが生きているかのように振る舞っていた。
きっと本人は無意識だったろう。
昼食のパンは三人分を買って、誰もいないのに会話も成立していた。
兄の死を認められず、そうすることで心を保っていたのだと思う。
存在しない長男と接するユアン兄さんは、とても幸せそうだった。
(まあ、私が言える立場ではないか……)
足を止めて休憩する。
視界の端にはユアン兄さんが立っていた。
優しい笑顔を私に向けている。
精神的に追い詰められた際、こうして幻を見ることがある。
きっとユアン兄さんも同じような状態だったのだろう。
そんな時、私は自分が幼い子供であると錯覚してしまうのだ。
(私は二人の兄の命を背負っている。現実を見ないといけない)
首を振って幻を払う。
ユアン兄さんの姿がなくなったのを見計らい、私は再び歩き出した。
周囲の気配が慌ただしくなる。
どうやら追っ手に見つかったらしい。
絶体絶命の状況だった。
私は冷静な眼差しで銃を構えて述べる。
「――偉大なる兄弟(ビッグブラザー)に感謝を」
明日を生きるため、私は死地へと踏み込んだ。
偉大なる兄弟たちへ 結城からく @yuishilo
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