第2話
隣の席が空いている。
昨日まで誰がいたかは、もう思い出せない。
思い出そうとすると、喉の奥が砂を噛んだように乾く。
教師は何も言わず、授業を続けている。
空席は、最初から数に入っていない。
放課後の教室。
西日が机の列を白く飛ばしている。
埃が光の中で、静かに動いていた。
それだけを、眺めていた。
誰もいないはずの空間が、少しずつ広がっていく。
以前はもっと、この部屋は狭かった気がする。
そう思い、やめた。
続けても何も残らないとわかっていた。
考えると、余計なものが残る。
椅子から立ち上がる。
音を立てないように。
廊下を歩く。
自分の足音だけが、耳につく。
人数は減っているはずなのに、
数え直す理由はなかった。
階段の手すりは冷え切っていて、
指先に、しびれが残った。
踊り場の鏡に、自分の顔が映る。
他人を見るように、それを一瞥して通り過ぎる。
寮の部屋に戻り、鍵をかける。
壁の白さだけが、視界を占める。
ベッドに横たわる。
天井の染みを、ひとつずつ数える。
掲示板がいつ書き換わるかは、誰にも分からない。
明日かもしれない。
数ヶ月先かもしれない。
どちらでも、構わなかった。
目を閉じる。
暗闇の奥で、自分の心臓の音だけを聞いていた。
それが、
今日の終わりだった。
序列の底で、血は静かに冷える 火気久家弧 @9-kakikukeko
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