序列の底で、血は静かに冷える

火気久家弧

第1話

この学園では、生徒は序列で呼ばれる。

 名前は、必要なときにだけ使われる。

 朝になると、掲示板が更新される。

 時間は決まっていない。予告もない。

 気づけば数字が並び、人が集まっている。

 誰も合図を出さない。

 それでも視線は、同じ場所へ向かう。

 人は自分の番号を探し、見つけ、黙る。

 声を上げる者はいない。

 驚きはあっても、それを外に出すことは許されていなかった。

 ここでは、感情は処理されるものだ。

 上位は保護される。

 下位は、記録から消える。

 教師は、その言葉を使わない。

 公式には、誰も消えていない。

 名簿が減り、席が空き、

 それが話題にされなくなるだけだ。

 それ以上を口にする者はいない。

 俺は掲示板の前に立ち、自分の番号を見つけた。

 中央。

 安全とも、危険とも言い切れない位置。

 胸の内側を探ったが、何も浮かばなかった。

 安堵も、不安も、形になる前に沈んでいく。

 感じないことは、ここでは普通だ。

 少なくとも、そう振る舞うのが正しい。

 背後で、誰かが短く息を詰めた。

 振り返らなかった。

 振り返れば、次は自分になる気がした。

 廊下を歩く。

 足音は揃っている。

 人数は合っているはずなのに、

 どこか余白がある。

 窓の外の中庭は、以前より少し広く見えた。

 教室には空席があった。

 教師は何も触れず、出欠を取り、授業を始める。

 欠けた分は、最初から数えられていない。

 俺はノートを開き、板書を書き写した。

 指先は少し冷たいが、問題はなかった。

 ここでは、

 感じないことが、最も安全だった。

 選ばれなくてもいい。

 上に行かなくてもいい。

 削られなければ、

 今日を終えられる。

 それだけで、十分だった。

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