第7話 エンジゾルとロブの孤立行

「やい、エンジゾル。こんな荒野で道に迷うようなヘタレ貴族がおまえ一人とは思わなかったぜ! くそっ、腹も減ったし、足元はガタガタしてるし、こんな場所まで来たところで何の得があるんだ?」


そう吠えたのは、大柄なモヒカン頭の男、ロブ・へイヤーである。見るからに武闘派、口より先に拳が出るタイプであり、革命軍の中でも異色の存在だ。彼の横で、まだ若いがどこか憂いを帯びた表情の男――エンジゾル・コミー・クリムゾンが、気まずそうに苦笑している。


「へ、ヘタレ貴族なんて言わないでくれよ、ロブ。ぼくとて一応、元は名門の家系さ。……ま、没落しちゃったけどね。でも、いろいろ新しい方法を試すためには、荒野のルートを開拓しておく必要があるんだ。それに、報告を怠ったのは悪かったけど、一応、誰かがこの散発的な混乱を鎮圧しないと困るわけだから……」


「だからって何で俺たち二人だけで来なきゃならねえんだよ!」


その言葉に、エンジゾルは思わず肩をすくめる。「ドゥッガーニたちが忙しそうだったし、ジャンヌやアルティは別の任務に向かっていたし……ぼくたちなら何とかなると思ったんだが……」

しかし彼がここまで歯切れが悪いのも無理はない。そもそも、革命軍の本部で正式に承認されたわけではなく、エンジゾルとロブが「勝手に」連れ立って出発してしまったという経緯がある。報告を怠り、補給支援すら受けずに飛び出した結果、食糧難や道中のトラブルに見舞われ、いまこうして荒野をさまよう羽目になっているのだ。


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## ■“ちょっと外れたコンビ”の出発


そもそもエンジゾル・コミー・クリムゾンは、かつて貴族として領地を経営していたものの、数々の失敗と時代の流れのせいで没落した経歴を持つ。そこから一念発起し、革命軍の理念に共鳴して仲間になったという、いわば“後天的”な同志だ。彼は柔軟な発想と一風変わった交渉術を武器にしているが、いかんせん実戦での戦闘力にはやや不安がある。

一方のロブ・へイヤーは、荒くれ者の集団を渡り歩いてきた強面で、モヒカン頭と筋骨隆々の体躯を誇る。武具の使い方は一流ではないが、豪快な殴り合いと突撃でたいていの相手を粉砕するタイプ。ドゥッガーニほどの統率力はないが、ひとたびキレるとかなり手が付けられない危険人物でもある。


そんな二人が、なぜか一緒に行動を始めることになったきっかけは、「地方の盗賊団や魔物による騒ぎが散発的に起きている」という噂を耳にしたからだった。革命軍はまだ人手が足りず、皆でまとまって動ける状況でもなかったため、「おれたちで先に行って片づけよう」「待ちきれねえ、どうせ誰もやらないならさっさと出発してやろう」と考え、意気揚々と本拠を出発。

だが、いざ荒野に足を踏み入れてみると、思った以上に環境が過酷で、地形も複雑で、しかも食糧や宿泊の手配がままならない。補給線など存在しないも同然だったため、数日経つうちに二人とも疲れ果ててきたのである。


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## ■食糧保存と魔物避けの知恵


「エンジゾル、おまえ、ChatOPTとかいうやつを使えるんだろ? そいつに『空腹を紛らわす方法』でも聞いとけよ!」


ロブが苛立ちまぎれにそう言い放つと、エンジゾルは苦笑しつつ「さすがに空腹そのものを消す方法はないだろうけど、何か保存食の作り方くらいはアドバイスがあるかも……」と返す。実はエンジゾルが持つ簡易タブレット型のChatOPT端末は、必要最低限の情報なら与えてくれる便利な代物だ。現代世界の食糧保存技術や魔術的な工夫を組み合わせれば、しばらく自給自足を続けられるかもしれない。


しかし、使用するにも魔力や電力相当のエネルギーが要るため、頻繁に起動するわけにもいかない。エンジゾルは2日おき程度にChatOPTを開き、「塩漬け」「燻製」「干し肉」「簡易保存容器を作る方法」などのキーワードを尋ねては、可能な範囲で実行に移している。

たとえば、小型の魔術式乾燥機を作るアイデアを参考にして、捕まえた小動物の肉を干して乾燥肉にしたり、岩塩が採れる場所を探して塩を確保したりと、なんとか食いつないでいる。ロブは「おまえ、なかなかやるじゃねえか」と口では言いつつも、「もっとガツンと腹に来る料理はないのか?」と嘆きがちだ。


また、魔物を避ける知恵として、チャバネ流(コックローチ家)でも使われていた強力な臭いのするハーブを散布する方法を応用したり、夜は魔術トーチを複数灯して結界風に配置したりと、ChatOPTのヒントとエンジゾルの発想力が合わさって地味に効果を出している。ロブは「へっ、こんな臭い草なんて持ち歩きたくねえ」と文句を言いながらも、魔物との遭遇が減っている現実を前に「ま、仕方ねえか」と黙認しているようだ。


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## ■盗賊団、魔物、タッチベル先遣隊──三重苦の地方トラブル


さて、なぜ彼らがこんな辺境をさまよっているかというと、冒頭でも触れたように盗賊団、魔物、そしてタッチベルの先遣隊による混乱が噂されていたからだ。実際、街道沿いで馬車を襲われる商隊が増えているし、農村に魔物が出没して農作物が荒らされる被害も急増しているらしい。さらに最近では、タッチベルの宣教師たちが“洗脳まがい”の勧誘を行っている形跡があり、いくつかの村では既に住民がぼんやりと従順化しているとのこと。


### 1. 盗賊団との邂逅


荒野の奥で遭遇した盗賊団は、十数名ほどの寄せ集め集団だった。彼らは貴族の追っ手から逃れるため、この辺りで潜伏し、通りかかった商隊や旅人を狙っているらしい。ロブは見つけ次第「皆殺しにしてやるぜ!」と息巻くが、エンジゾルは「いや、全員が死に物狂いとは限らない。交渉次第で被害を抑えられるかも」と説得を試みる。結果として、二人が一致協力し、まずロブが圧倒的な腕力で盗賊たちのリーダー格を叩きのめし、エンジゾルが「一度だけ見逃すから、二度と村を荒らさないと誓うなら武器を置いて去れ」と交渉する形に落ち着く。


元貴族という肩書を活かしたエンジゾルの交渉術は、傲慢でもなく、弱腰でもない絶妙なバランスで、一部の盗賊たちを怯えさせ、「このまま戦っても勝てない」と思わせるのに成功する。ロブは歯がゆそうに「こんな雑魚ども、一網打尽にしても良かったんじゃねえか」と呟くが、エンジゾルが「無用な血の雨を降らせても、後味が悪いだけさ」と言うと、しぶしぶ同意する。

こうして、盗賊団は撤退し、その後しばらくこの地域で大規模な被害が報告されることはなくなる。一件落着……というわけにはいかない。彼らは相当のダメージを受けつつも散り散りになっただけで、いつか別の場所で悪事に及ぶかもしれない。ただ、この場では被害を最小限に抑えたという点で、二人の連携が功を奏したのは確かだった。


### 2. 魔物の群れを退けた小さな村


さらに進むと、今度は魔物に怯える小さな村に出くわす。そこでは、夜な夜な物音や奇妙な唸り声が聞こえ、家畜が一頭ずつ消えていくという怪現象が起きていた。エンジゾルとロブが村人から話を聞くと、どうやら森に棲む狼型の魔獣が連携して襲撃を繰り返しているらしい。

ここでロブの豪快さが試される。村人たちは「助けを求めたいが騎士団も来てくれないし、どうしたらいいんだ」と嘆く。ロブは「おれがぶっ殺してやる」と太鼓判を押し、夜の見回りに同行する形で魔物の巣を探すことになる。エンジゾルはその勇敢さに感心しつつも、「無茶しないでくれよ」と内心ヒヤヒヤだ。


結局、魔獣の群れを誘き出すための囮作戦を実行する。家畜小屋に偽の羊を設置してわざと匂いを撒き散らし、夜の森でロブが待ち伏せするという、まさに力技の作戦。魔獣が姿を現したとたん、ロブは雄叫びを上げながら猛突進し、1匹、2匹と殴り倒していく。一方、エンジゾルは村人たちに火を焚かせて出口を塞ぎ、魔獣を追い込むサポートを担当。こんな型破りな作戦でも、うまく噛み合えばそれなりの効果を発揮する。


戦闘は激しかったが、何とか群れのリーダーと思われる大型の狼魔獣を仕留めたことで、群れは散り散りに逃げ去り、村に平穏が戻る。とはいえ、ロブは腕に深い傷を負い、エンジゾルも慣れない肉弾戦に巻き込まれて足をくじくなどボロボロの状態だ。それでも村人たちから感謝され、食糧や薬を少し分けてもらうことができ、二人にとってはありがたい結果となった。


### 3. タッチベル先遣隊との衝突


さらに問題だったのが、タッチベルの先遣隊との遭遇である。これこそ、実はエンジゾルがこの旅に出る大きな理由でもあった。タッチベルが単なる通信手段にとどまらず、洗脳装置としての機能を備えているかもしれないという噂は、革命軍内部で広まり始めていた。エンジゾルは貴族経験とChatOPTの知識を活かし、初期段階でそれを確認しておきたいと考えていたのだ。


一軒の民家がある荒野の外れで、二人はタッチベルを持った宣教師風の男と、その護衛らしき兵士に遭遇する。護衛兵は何人か洗脳状態にあるのか、ぼんやりとした目で槍を構えている。ロブは「気味が悪い」と顔をしかめ、すぐにでも拳を振り上げようとするが、エンジゾルは「待て、話を聞こう」と止める。

だが、相手は話す気はなさそうだ。むしろ「ここは教会の保護下にある場所だ。おまえたちは余計な詮索をするな」と威圧的な態度を取ってくる。エンジゾルが「タッチベルについて詳しく知りたいだけだ」と低姿勢で頼んでも、「部外者に教えることはない」と一蹴される。事態が膠着しつつあったが、突然兵士の一人がタッチベルのカメラをこちらに向けて撮影しようとしたことで、ロブの怒りが爆発。


「撮らせるか、こんなもんブチ壊してやる!」

ロブは瞬時に跳躍し、カメラ部分めがけて拳を叩き込む。エンジゾルが「ちょ、ちょっと待っ――」と焦るがもう遅い。兵士はよろめいて尻餅をつき、タッチベルのレンズがひび割れを起こす。すると不思議なことに、さっきまで無表情だった兵士が一瞬ハッとした顔を見せ、「何だ? 俺は、なぜここに……?」と戸惑うそぶりを見せる。どうやら「カメラ部分を叩き壊せば洗脳効果が阻害されるかもしれない」という革命軍の仮説は、あながち間違いではないようだ。


宣教師風の男は「貴様ら、なんてことを……!」と激昂し、残りの兵士たちに攻撃命令を下すが、ロブはそのまま肉弾戦で押し切り、エンジゾルは後方からチェーンやロープを投げて足止めするなど協力プレイを展開。どうにかこうにか先遣隊を追い散らすことに成功する。結果的に、カメラが壊れた兵士一名が正気を取り戻したという有力な手がかりを得る。しかし、敵も負傷しながら逃亡しただけであり、根本的な解決には至らない。


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## ■孤立無援の中での気づき


こうして二人は盗賊、魔物、タッチベル先遣隊との三重苦を切り抜けていくが、その過程で深刻な事実にも気づかされる。**洗脳の広がりが想像以上に速い**ということだ。タッチベルがまだ普及していない地方ですら、先遣隊がこんなふうに動いているのなら、都会や大きな街ではもっと進んでいる可能性が高い。エンジゾルとロブが孤立しながら対応しても、焼け石に水だという感覚が否めない。


加えて、すでに二人の体力と装備は限界に近い。ロブの腕の傷は深く、エンジゾルの足の腫れもなかなか引かない。食糧も底をついてきた。周囲の小さな村や宿場で補給しようにも、資源が乏しかったり、タッチベル洗脳の影響を受けた村人が警戒していたりで、思うように物資が集まらない。

「こりゃあ、そろそろ引き上げないと、本当に倒れちまうぞ。おれは別に死ぬのは構わねえけど、こんな中途半端な形でくたばるのはごめんだ!」

ロブが痺れを切らしたようにそう言うと、エンジゾルも無念そうに頷く。「ああ、ぼくも同感だよ。せっかくの手がかりを見つけたんだから、革命軍の本拠に報告しないと意味がない。こんなところで野垂れ死んでしまったら……」


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## ■帰還の決意と壮絶な道のり


こうして二人は革命軍本拠へ戻る決断をするが、道中は依然として過酷だ。馬もないし、徒歩と行きずりの荷車を借りながら移動するしかない。運悪く天候が崩れ、嵐が荒野を吹き荒れる夜もあり、冷たい雨に打たれながら岩場で夜を明かす羽目になる。ロブが「クソッ、たまには貴族の邸宅で楽をしたいもんだな」とぼやくと、エンジゾルは「ぼくだって、もうそんな暮らしは遠い昔さ」と苦笑する。

途中、かろうじて偶然通りかかった旅商人の一団から温かいスープを分けてもらい、体力を繋ぐシーンもある。エンジゾルがかつて貴族だったと告げると商人たちは興味津々で話を聞いてくれるが、ロブが無遠慮な言葉を吐いて気まずい空気になるなど、相変わらず噛み合いが悪い。それでも、こうした小さな助け合いを重ねながら、二人は何とか本拠へ向けて歩みを進めていく。


道中、エンジゾルはChatOPTに道案内を求めたくても、電力や魔力不足で起動できないことが多い。やむを得ず“近代的な地図の概念”を手書きで思い出し、コンパスの代わりに魔術的な磁石を作り出して方向を確認するという知恵を振り絞る。**チャバネの闇ルートで得た技術**という話もちらっと脳裏をよぎるが、エンジゾルは「それは御法度の話題だね」と自嘲気味に胸にしまう。いずれにしても、小さな便利アイテムを活かして迷子になるのを避けているのだ。


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## ■ようやくの帰還、そして大目玉


「おお、おまえら! 勝手にどこへ行きやがった!」

何とか革命軍の拠点へたどり着いたとき、まず出迎えたのは武闘派リーダーのドゥッガーニだ。彼は腕組みをしながら、明らかな怒りをにじませて二人を睨む。「補給や作戦の連絡はどうした? 報告もなしに消えやがって!」と大声で叱りつける。

ロブはその迫力に思わず「わりいわりい、でもよぉ、俺たちだって成果は上げてきたんだぜ」と少し威勢よく返す。エンジゾルはしょんぼりしながら「ああ、本当にすみません。盗賊団を追い払って、魔物から村を守って、さらにタッチベル先遣隊との衝突も経験して……」と話し始める。

顔を見ると、二人とも服はボロボロ、傷だらけ、ひどく痩せた様子だ。ドゥッガーニが呆れたように鼻を鳴らす。「まったく、勝手に動いて勝手にボロボロになりやがって。でも、おまえらなりに頑張ったみたいだな。報告しろ、何があった?」


そこへジャンヌやアルティ、さらには乱世も駆け寄ってくる。アルティが「大丈夫? その怪我……」と目を見開けば、ジャンヌは「治療しなきゃ」と声をかける。ロブは「へへっ、俺の傷はたいしたことねえさ」と強がるが、正直ヘトヘトで倒れそうだ。エンジゾルも足の激痛を我慢しており、今にも意識が遠のきそうになりながらも、必死に言葉を絞り出す。


「わ、わかったんだ……タッチベル……やはり危険だ。カメラ部分を壊したら、兵士が正気に戻った。洗脳を解除する……糸口かも……。それと……地方じゃもう混乱が広がってる……これ以上放置すると……」

言い終わらないうちに、エンジゾルの意識は途絶え、倒れ込んでしまう。周囲が慌てて介抱し、医療班が駆け寄って手当てを始める。ロブは何とか立っているが、よろけてフラつく様子を見て、オーギャストやジャンヌが支えている。そうして二人は、無事に帰還できた安堵と、“勝手な行動”による叱責を同時に受けるという、何とも複雑な状況を迎えるのだった。


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## ■“外れたコンビ”がもたらした気づき


後になって、革命軍のミーティングでエンジゾルとロブの行動が総括される。無茶をしたとはいえ、盗賊団や魔物の被害を食い止め、タッチベル先遣隊の危険性を身をもって確認できたのは大きい。特に「カメラ部分を叩き壊せば洗脳が揺らぐ可能性がある」という発見は重要で、これを共有すれば、洗脳対策の第一歩を探ることができるかもしれない。

ジャンヌやドゥッガーニは「だからって、こんな危ないやり方は今後やめろ」と釘を刺すが、ロブは「まあ、おれたちがいなけりゃ分からなかった情報だろ?」とドヤ顔気味。エンジゾルはというと、布団の上でうなされながら「ああ、もっと周到に準備してから出発すればよかった」と反省しつつ、しかしどこか満足げでもあった。

ドゥッガーニが最後に言う。「ま、おまえらの独断専行は褒められたもんじゃねえが、俺たちも手が回らなかったのは事実だ。だがな、次からは必ず連絡しろ。せめて補給くらい用意してやるからよ」――その言葉に、ロブは「おう!」と素直にうなずき、エンジゾルは「……ありがとう」と弱々しく微笑む。どこかんかん外れたコンビかもしれないが、その成果は無視できないものがあった。


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## ■この先の活躍と苦難への伏線


こうして一時はボロボロになりながらも本拠へ戻ったエンジゾルとロブは、体力を回復するにつれ再び行動を開始する。エンジゾルは柔軟な発想とChatOPTの知識を活かし、今度こそ仲間との連携を密にしながら、地方の問題解決に当たろうと決意する。ロブも「もっとデカい相手と戦いたいし、洗脳兵だろうがなんだろうがブチのめすのみだ!」とやる気をみなぎらせている。

ただ、彼らが見てきた地方の惨状は、リシュリュー枢機卿の洗脳が徐々に国土全体を侵食していることの証左でもある。革命軍が本腰を入れて対抗策を練らねば、やがては大きな戦いが待ち受けるだろう。そのとき、エンジゾルとロブが培った経験や、「カメラ部分を壊す」という対抗策がどれだけ役に立つのか――それはまだ定かではない。

だが少なくとも、彼らが孤立無援で体当たりしたこの冒険は、革命軍全体にとって貴重な教訓と手がかりをもたらした。勝手に飛び出して大目玉を食らうという結末ではあったが、それだけのリスクを冒したからこそ得られた成果もあったのだ。今後、洗脳との戦いが激化していくにつれ、こうした“外れたコンビ”の奮闘がさらに注目を浴びる日が来るのかもしれない。


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## ■エンディング:また出撃するときは、もう少し賢く


ひとまず、エンジゾルとロブはしばらく本拠で静養と報告を兼ねて過ごすことになった。ドゥッガーニやジャンヌ、オーギャストらが実務を進める傍ら、二人は一連の出来事をまとめた書簡を作成し、タッチベルや洗脳の情報を整理していく。エンジゾルは「もし次に行くなら、ちゃんと補給と人員を確保してから動こう。ぼくたちだけじゃ限界がある」と強く誓い、ロブも「へっ、生ぬるいこと言うなよ……いや、まあ、正直もう少し物資が欲しいのは確かだが」と素直ではない言葉で賛成している。

そうこうしているうちに、新たな騒動が持ち上がる気配も漂い始める。“枢機卿の式典が近い”“教皇バンシーが各地を回る”などの噂が耳に入り、革命軍は否応なく大きな動きへと巻き込まれていく。しかし、その物語はまた別の機会に語られるものだろう。

本当に危険な荒野はこれからだ。だがエンジゾルとロブのコンビが再び前線に立つとき、今度は“孤立行”ではなく、仲間たちとの連携をうまく活かせるに違いない。少なくとも、彼らが既にボロボロを経験してきた分、次はもう少し賢い立ち回りが期待できる……かもしれない。


そう、二人はつくづく“ちょっと外れたコンビ”ではあるが、度胸とアイデアだけは確かなのだから。彼らの冒険がいずれ革命軍の糧となり、最終決戦へ繋がっていくのは、紛れもない事実なのだ。いまはただ、久しぶりの柔らかい寝床で疲れを癒し、傷を治しながら、自分たちの見つけたヒントをどんなふうに活かせるか――それを思案する時間が、明日の戦いの大きな力になるだろう。

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