第3話 ドゥッガーニと奴隷農村の抗争
「殴り飛ばしたい。きれい事なしで言うなら、オレはあの貴族どもの横暴を、ただ拳ひとつで粉砕したいんだ――。」
そう呟いたのは、革命軍の武闘派リーダーとして名を馳せるドゥッガーニである。ゴツゴツとした体格に加え、口より先に拳が出る短気な性格は周知の事実だ。しかし、その荒々しい態度の裏には、虐げられる奴隷たちを放っておけない正義感と情の深さが同居している。彼はいつも「行動なくして何が革命か!」と主張しては、危うい一線を飛び越えそうになり、周囲をハラハラさせていた。
そんなドゥッガーニが今回激昂したのは、とある農村で奴隷制を敷き続ける貴族に関する情報が耳に入ったからであった。農地の管理権を持つ貴族の一族が、畑仕事に駆り出した奴隷を酷使し、反抗すれば鞭打ちも辞さない非道なやり方を続けているという。しかも農作物の収益はすべて吸い上げられ、奴隷たちの生活は悲惨を極めるらしい。
「こんな不条理を黙って見ていられるか!」
ドゥッガーニが周囲に一言そう言い放ったかと思うと、すでに荷支度を終えて馬にまたがり、単身で突撃しようとしている姿があった。近くにいた仲間たちが慌てて制止しようとするも、彼は「後から来い!」とばかりに振り払って進んでしまう。衝動的に走り出したドゥッガーニは、まだ情報が不十分な農村に向かい、危険な独断行動を開始したのである。
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## ■突撃と阻まれた正義
しかし、いざ農村に到着すると、思い描いていた“殴り合いで解決”のシナリオがいかに甘い考えだったかを思い知ることとなる。ドゥッガーニが最初に目にしたのは、畑の隅で集団鞭打ちを受ける奴隷たちの光景だった。皮膚に刻まれた傷跡、荒れ果てた姿、苦痛の声――ドゥッガーニの拳は自然と硬く握り締められ、「今すぐ助けなくてどうする」と駆け寄る寸前までいく。だが、そこには武装した監視兵がずらりと並んでいた。
さらにその監視兵の背後には、領地を治める貴族の部下らしい男たちが控えている。彼らはすでにドゥッガーニの姿を認めると、「余所者は立ち去れ」と冷ややかに警告してきた。どうやら、どこかからドゥッガーニが来るとの情報が伝わっていたらしく、完全に包囲網を敷いて待ち受けていたのだ。もしドゥッガーニが無謀な手を打てば、すぐさま奴隷たちを人質に取られかねない状況である。
ドゥッガーニは喉が焼けつくような怒りを必死に堪えながらも、ちょっとでも手を出せば奴隷たちがさらに傷つくと悟り、拳を振り上げることをいったん留めた。しかし、その視線は激しい憤りに燃えている。監視兵や貴族の手下たちからしてみれば、彼の頬や腕に浮かぶ盛り上がった筋肉と、鬼のような形相だけでも充分に脅威と映っただろう。
「ここにいる奴隷たちを解放しろ。それができないなら、オレがおまえらを叩き潰すまでだ!」
声は震えんばかりの怒気に満ちているが、それに対して貴族の手下はにやりと笑い、「ほう、なら試してみるがいい。ここでひとりでも奴隷を解放したら、この農村の全員を鞭打ちにかけると殿(との)が言っているが?」と嘲るように返す。ドゥッガーニは歯ぎしりしながら、すぐには何もできない自分に苛立った。
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## ■オーギャストの説得
そんな一触即発の状況下に、遅れて合流してきたのがオーギャストと数名の革命軍だった。オーギャストはもともと穏やかな口調と冷静な思考で知られ、情報収集や交渉を得意としている。彼はドゥッガーニの背後に進み出るなり、手を軽く挙げて状況を観察し、「まずは話をさせていただきたい」と丁寧に申し出た。
「迂闊な武力行使だけでは救えないのです、ドゥッガーニさん。あなたもわかっているはずだ。もし奴らが人質の奴隷をさらに傷つけるような事態になれば、それこそ目も当てられない」
オーギャストの落ち着いた声が、ドゥッガーニの荒ぶる感情をわずかに鎮める。ドゥッガーニは「わかってる…が、オレにはここで何もせずに戻るなんて無理だ」と苦渋の表情を浮かべた。彼からすれば、鞭打ちを黙って見過ごすなど到底できることではない。
そこでオーギャストは一つ深呼吸をすると、貴族の手下たちに向けて「あなた方の主君とも直接話したい」と申し入れる。手下たちは最初こそ拒否するが、どうやら上の命令で“革命軍の動きを報告せよ”とは言われているらしく、完全に門前払いするわけにもいかないらしい。結局、その場で大立ち回りをすることは回避され、両者は一時休戦のかたちで交渉の場を設けることになった。
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## ■鞭打ちの現場とドゥッガーニの苦悩
一方、交渉が整うまでの間も、鞭打ちの現場は続いていた。というより、鞭打ちを受ける奴隷たちの苦痛を手下たちは“見せつける”ことで、ドゥッガーニやオーギャストに対して「下手に出ればこうなるぞ」と暗に警告しているようだった。そのあからさまな脅しに、ドゥッガーニは顔をしかめながらも、仲間を振り返る。
「こんな状況を黙って見ろってのか……どんなに交渉をしても、それが終わるまでにこの奴隷たちは何度も殴られる。オレはそれに耐えられない」
拳がうずくようだ。すぐにでも飛び出して、彼らの鞭をへし折ってやりたいと思うのが本音である。しかし、今ここで暴れれば、貴族の手下の数や人質を考えると絶望的に不利。迂闊に攻撃して逆上させれば奴隷がさらに痛めつけられ、多くの命が危険にさらされる。ドゥッガーニは歯を食いしばりながら、必死に自制した。
オーギャストはそんな彼の様子を見て、「奴らの暴力を今すぐ止められないのは悔しいですが、どうかもう少し時間を」と小声でなだめる。実際に怒りのオーラを放っているドゥッガーニを抑えられるのは、オーギャストの冷静さと、革命軍内部での信頼関係があってこそだった。
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## ■失敗領地のノウハウと交渉材料
翌朝、革命軍の小隊が再び農村に足を運ぶ。ドゥッガーニとオーギャストは、奴隷を管理する貴族の代理人と正面で対峙し、話し合いを持つことになる。ここで大きな役割を果たしたのが、エンジゾル・コミー・クリムゾンが提供した“失敗領地の経営ノウハウ”であった。
もともとエンジゾルは自分の領地経営に失敗し、財政難に陥った苦い経験がある。しかしその過程で、土地改良や農産物の流通手段などを試行錯誤した結果、さまざまなデータや記録を残していた。これを逆手に取れば、どうすれば農地をうまく活用できるのか、どういう形で税や収益を確保できるのかといった“具体的な解決策”を提示できるのである。
オーギャストは貴族側に向かって「私たちが学んだ技術を共有すれば、そちらの農産物ももっと収益が上がるかもしれません」と提案する。さらに「それには奴隷たちを人道的に扱う必要があります。厳しい労働環境では、結果的に農作物の質や量も伸び悩むでしょう」と持ちかけるのだ。要するに、人を鞭打って働かせるよりも、適切に労働環境を整えたほうが長期的には儲かるという経営論理を提示しているわけである。
貴族の代理人は鼻で笑うように「奴隷を甘やかせば、余計なコストがかかるだけではないか」と疑いの目を向けるが、オーギャストは淡々と書面を取り出して数字を示す。そこにはChatOPTから得た近代的農業の手法や、魔術との併用による効率化がまとめられており、作物の生産高のモデルプランが緻密に組み込まれていた。貴族の代理人はちらりと目を通し、少し不安げな表情を浮かべる。
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## ■ChatOPT的農業改革とドゥッガーニの理解度
ところで、ドゥッガーニはこうした交渉や書面の類にはさっぱり興味が持てないタイプだ。本人も「よく分からねえが、要は奴らに奴隷を殴るよりも儲ける道があるって説得するんだろ?」程度の認識しかない。とはいえ、この方法しか奴隷を救う現実的な策はないのだと分かると、彼は自分なりに納得し、黙ってオーギャストの後ろで威圧感を放ちながら立っている。
ChatOPTが示す“土地改良と食糧生産”の知識は、革命軍の武力一辺倒の戦法ではない戦略として大きな意味を持つ。具体的には、農村に眠る地下水をくみ上げる仕組みや、適度な輪作によって土地の栄養を回復させる方法、病害虫対策としての魔法との併用など、古い慣習に囚われたままの貴族側ではなかなか思いつかないアイデアが多い。
もっとも、ドゥッガーニ自身がそのアイデアを理解しているかといえば微妙だが、彼は少なくとも革命軍に加わる過程で「ChatOPTが導いた知恵が役立つこともある」という経験をしている。それゆえに、オーギャストの言うことを横から「そいつは結構効果あるぞ」と口添えするなど、それなりの支援をする。剣を振るうだけが彼の役目ではない、という自覚が、この農村での衝突を通じて芽生えつつあった。
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## ■奴隷たちの視線――革命軍は暴力集団か?
もっとも、奴隷たちにしてみれば、革命軍もまた“外から来た武装集団”という印象がないわけではなかった。ドゥッガーニのように口より先に拳が出るタイプが率いているとなれば、彼らが「結局は自分たちを道具にして暴れ回るだけではないのか」と恐れるのも無理はない。実際、ドゥッガーニがあの凄まじい体格で乗り込んできた姿を見れば、味方なのか敵なのか瞬時には判別できないだろう。
だが、今回の交渉過程や、オーギャストの書類を通じて、革命軍は“暴力一辺倒ではない”アプローチを見せ始めている。これが奴隷たちの目にも明らかになり、「あの大男(ドゥッガーニ)はすぐ手を出しそうだけど、実際は私たちを守ろうとしてくれているらしい」との評判が少しずつ広まるのだ。
ある奴隷の若者が鞭打ちで足を引きずりながらドゥッガーニに近寄り、「あんたらは本当に、俺たちを助けに来てくれたのか?」と低い声で尋ねたとき、ドゥッガーニは一瞬、気まずそうに目をそらす。しかし、すぐに相手の目を見て「オレたちは……いや、オレは、おまえらがこれ以上痛い目に遭わないように全力でやる。待たせて悪かった」と答える。その不器用な言葉に、若者はほんの少しだが安心を覚えたようだった。
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## ■人質戦略のほころび
一方、交渉のテーブルについた貴族の代理人もまた、当初は人質戦略を盾に徹底抗戦の構えを見せていた。だが、オーギャストが提示した農業改革案に興味を示し始めた周辺の小役人たちが、「これ、うまくいけば領地にとっても悪い話じゃないのでは?」とささやきはじめるのだ。つまり、利益を優先するなら、奴隷を必要以上に痛めつける合理性は薄いという考えが徐々に浸透してきたわけである。
もちろん、枢機卿や妖精教皇バンシーの影響が絶対的なこの国では、わずかな変化がすぐに大きな改革に結びつくとは限らない。しかし、一度“奴隷制は絶対に正義”という思い込みに揺らぎが生じると、人は簡単には元の考えに固執できなくなる。こうした微妙な温度差が、貴族内部の足並みを乱し始める。
やがて、農村の支配構造そのものに少しずつ亀裂が入る。何より、奴隷たちの意識変化が大きい。革命軍がただの暴力集団ではなく、彼らにも新しい生活を提供してくれる可能性があると感じ始めると、一部の奴隷が勇気を出して自ら声を上げるようになった。「できることがあれば手伝いたい」「農作業を続けながら、自分たちも利益を得られる体制はないのか」といった提案や問いかけが生まれ、代理人にとっても対処に苦慮する展開が訪れるのだ。
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## ■ドゥッガーニの決意と革命軍の評価
数日間の睨み合いと交渉の末、いくつかの大きな進展が見られる。まず、奴隷への鞭打ちの回数が明らかに減少した。表向きは「長期的に見れば農作物の収益向上のための施策」と称されているが、実質的には革命軍の存在を恐れての譲歩であることは明らかだ。ドゥッガーニはまだ完全に納得したわけではないが、それでも奴隷たちの苦痛が一時的にでも和らいだことに安堵を覚える。
エンジゾルが提供した失敗領地のノウハウをベースに、オーギャストが貴族代理人との間で「今後の農業収益の配分」「奴隷の待遇改善」についての覚書のような書面を交わす場面もあった。そこに署名したからといって、すべてが解決するわけではない。しかし一歩前進ともいえる形で、革命軍が貴族に“話の通じる相手”と思われ始めたのは大きい。
この一連の出来事を通じて、ドゥッガーニ自身も変化を感じずにはいられなかった。彼は暴力的な手段を常に辞さない覚悟でいる一方、「奴隷解放のためには、多少の我慢や政治的手腕も必要なのかもしれない」と認めざるを得なかったのである。自分が単身突撃していたら、きっとさらなる虐殺や混乱を引き起こしていただろう。それを止めてくれたオーギャストの言葉を思い出し、「オレにはまだ足りないもんがあるんだろうな」と心中で呟く。
奴隷たちの間では、革命軍に対する評価が少しだけ改善されていた。中には「ドゥッガーニの拳の一撃であの鞭使いを叩きのめしてほしかった」という声もあるが、現実としてそれだけでは解放が実現しにくい。これをきっかけに奴隷と革命軍の連携体制が強まり、次なる動きが期待される余地も出てくるだろう。そういう意味で、今回の一件は“暴力一辺倒ではない革命”の可能性を奴隷側にも示す、重要な分岐点となったのだ。
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## ■情報遮断への対策――足で稼ぐ諜報網
この農村一帯では、まだ枢機卿が推進するタッチベルの普及は限定的であり、遠隔通信がそこまで整っていない。情報が広域に行き渡らないというデメリットもあるが、その一方で、革命軍にとっては“敵に動きを筒抜けにされにくい”メリットがある。タッチベルのカメラで魂を抜かれる危険性がまだ小さいのも、この時期ゆえの幸運と言える。
ただし、反面、革命軍のほうも細かい報告や事態の把握をするには、使い走りの兵士や協力的な農民が実際に村々を巡って情報を集めるしかない。足で稼ぐ諜報活動は手間と時間がかかるが、オーギャストはそれを苦にしない性分であり、丁寧に人脈を築いていく。今回の紛争を機に接触した奴隷や小役人の一部が、密かに革命軍へ内部情報を提供するルートも生まれ始めていた。
この“足で稼ぐ”情報網こそ、後々大きなアドバンテージとなる。やがて枢機卿が洗脳を加速させていく中で、誰がまだ正気を保っているのか、どの町がタッチベルに染まっていないのか――そういった微妙な境界情報を素早くキャッチできるかどうかが、生き残りをかけた戦いで重要な意味を持つのである。
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## ■奴隷たちの協力申し出――革命軍はただの暴力集団ではなかった
今回の一連の騒動で、最大の成果はやはり奴隷たちが革命軍を「自分たちの味方かもしれない」と考え始めたことである。以前は、大男ドゥッガーニの乱暴なイメージや、斧や槍を携えた危険な集団という先入観も相まって、革命軍に対して身構えることが多かった。けれども、彼らがいざ鞭や暴力で抑圧されている現場を目撃し、農村の支配構造を崩そうと懸命に動いた姿を見て、一部の奴隷は熱い眼差しを向けるようになる。
特に、ある壮年の奴隷男性は、かつて技術職についていた経験があり、農業だけでなく簡単な鉄器の修繕などもできるらしい。彼はドゥッガーニのもとを訪れ、「あなた方の革命に協力したい。いきなり戦場に出るのは難しいが、武器の修繕や荷馬車の改造などで役に立てると思う」と申し出る。ドゥッガーニは最初、あまりに疲れ切った相手の姿を見て「そんな無茶をするな」と苦い表情を浮かべるが、その熱意に押され、「助かる。ぜひ頼む」と手を差し伸べたのだった。
このように、奴隷たちが自発的に革命軍を手伝おうとする姿勢は、単なる暴力による強制ではなく、革命軍の理念――奴隷解放――に対する共感の表れでもある。それは同時に、「オレは暴れたくて革命をやってるわけじゃないんだ」というドゥッガーニの思いを多少なりとも理解してもらった結果でもあった。
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## ■暴力と理のあわいで揺れるドゥッガーニ
とはいえ、ドゥッガーニの胸中には依然として収まりきらない葛藤がある。農村の奴隷たちが完璧に救われたわけでもないし、今も殴られたり脅されたりしている人々がいるのは確かだ。今回の介入で一時的に状況は緩和されたかもしれないが、枢機卿や貴族が本腰を入れて弾圧してくる可能性だって高い。そんな中で、彼は「暴力を振るわずに話し合いだけでいいのか?」という疑念に苦しむことになる。
実際、オーギャストは「今はあくまで足場を築く段階です」と諭すが、ドゥッガーニにとってはそれでは生ぬるく感じる時も多い。「もし貴族が裏切ったら、その時はオレが全部ぶっ壊してやる」と息巻く彼の過激な言動を、オーギャストは苦笑いで受け流すしかない。しかし、その一方で、ドゥッガーニの武勇とカリスマが革命軍にとって大きな力であることも確かだ。彼の“実力行使”が抑止力になっている面もあるため、一概に暴力を否定できないというジレンマがある。
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## ■次なる戦いへの種火
最終的に、農村の奴隷たちは革命軍に対して協力を申し出るだけでなく、貴族による監視をかいくぐって少しずつ情報を流してくれるようになる。この情報が後に大きな助けとなり、別の地域での反乱を支援したり、リシュリュー枢機卿の陰謀を先回りして察知したりする契機を生むのだ。ドゥッガーニがこの農村に突撃したことは、一見すると無謀だったが、結果的には革命軍の存在感を奴隷層へ示す好機にもなったわけである。
しかし同時に、貴族たちが革命軍の介入に強く反発したのも事実。これまでのように奴隷を自由に扱えなくなるとなれば、彼らはなんとかして革命軍を排除しようと画策するだろう。さらには、枢機卿に報告が上がれば、洗脳装置タッチベルの使者が送り込まれる可能性も考えられる。こうして、一見すれば農村での些細な衝突が、じわじわと大局に影響を及ぼしていくのだ。
ドゥッガーニは「またいつか、この村に戻ってくることがあるだろう。その時は全部ひっくり返してやるさ」と、いまだ鬱積する怒りを胸に秘めている。オーギャストやエンジゾルたちが進める柔軟な交渉路線と、彼の力づくでものを解決したがる衝動は、これからも時折衝突するかもしれない。それでも今は、一度この場を離れ、別の場所へと向かう段階にある。
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## ■幕引きとこれから
こうして、一時的には貴族の農村支配にほころびが生じ、奴隷たちが「革命軍は私たちのために行動している」という認識を持ち始めるという成果を得た。完全な解放には程遠いが、ドゥッガーニが渇望する“力任せの行使”だけでは得られなかった進展を、この数日の交渉が確かに生んだのである。
一方、ドゥッガーニの内面は微妙な揺らぎを抱えつつも、革命軍としての新たな覚悟を深めていた。武力をぶつけるだけではなく、奴隷たちと心を通わせ、彼らの意思を尊重しながら前に進む――そんなやり方が本当に自分にできるのかどうか、自信はない。しかし、鞭打ちの痛みに苦しむ人々を見て、何もしないよりははるかに意味があると確信を得たのも事実だ。
「オレは、もっと強くならなきゃならねぇ。拳だけじゃなく、頭や心も、な。」
農村を去る前夜、ドゥッガーニは宙を見つめながらぽつりと呟いた。それに対してオーギャストは笑みを浮かべ、「そうですね。力も理も、両方あればこそ革命は進むのだと思いますよ」と肩をすくめる。農村の夜風が二人の言葉をさらい、焚き火の火の粉がはじける。奴隷と貴族の間に介入した小さな革命が、ここからどんな波紋を広げていくのか――それは、まだ誰も知らない。
***
以上が、ドゥッガーニと奴隷農村の抗争を巡る一幕である。ここでは荒々しい衝動のまま突撃する彼の姿と、オーギャストらが提示する“知恵を活かした交渉”という対照的な手段が融合し、奴隷たちとの連携を生み出す鍵となった。まだ本格的な奴隷解放には遠いが、この一件で「革命軍はただの暴力集団ではない」と感じさせたことが大きな収穫である。ドゥッガーニもまた、拳に頼るだけではなく、時には頭を使い、周りに助けを求めながら動く道を学び始めている。
そして、ChatOPTの技術解説やエンジゾルが提供した経営ノウハウによって、農地改革や収益改善策が交渉の武器となり得ることが判明した。今はまだタッチベル普及前で、通信が不十分な時期だからこそ、足で稼ぐ情報網が活きたとも言える。もし洗脳が広がり、貴族たちが枢機卿の後ろ盾を得れば、次はもっと大きな衝突になる可能性が高い。
とはいえ、革命とはそうした小さな行動の積み重ねでしか前へ進めない。ドゥッガーニはその“積み重ね”に苛立ちながらも、一歩ずつ着実に戦う覚悟を固めている。拘束された奴隷を解放し、不条理な支配構造を崩し、新たな世界を形作るために――彼らは武闘派と理詰め派、それぞれの得意な手段を携えながら、次なる戦場へと向かおうとしているのだ。
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