第2話 扇

 仲居は帯の端に扇を刺します。

 ほとんど形骸化してますが、この扇をとても美しく用いる仲居さんがいます。

 接待の席ではホストから仲居の指名を受けるほどの方です。


 ある時、彼女が左手で開いた扇を胸の高さまで掲げ、肘が見えないように右手でたもとを持っていたので何かと思ったら、お客様のお支払いのクレジットカードを扇に乗せて親指で押さえ、左手で持って受付の清算に向かうところでした。

 左上位で、胸から下は不浄とされていますから。

 彼女はそれを厳守しています。

 お客様の大切なクレジットカードを開いた扇で持つということは、末広がりに取引が上手くいきますようにとのメッセージです。

 お客様は暗証番号を押すために彼女の後ろからついてきています。

 ここまでされたら気分も良くなりますよね。

 

 中にはそんな彼女を気取っているとか悪口言う仲居もいますけど。

 料亭なんだからお客様の気分を良くしてなんぼの世界です。


 私は彼女から真似してもいい許可を取っていました。

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