第3話 路肩
当たり前のことですが、車は歩道に乗り上げてはいけません。
けれども私が働いていた料亭では、お供(料亭では迎えの車を『お供』と言います)が歩道に乗り上げてもいいと言う許可を市から取っていました。
例えば経済連の重鎮方の集まりなどでは、帰る頃にはべろべろでへろへろです。
足元もおぼつかないおじ様方が路肩と車の間の溝に足を踏み外し、転倒するなどの事故があってはなりません。
そのため、乗り上げた車に無事に押し込むための処置として行われていました。
また、お供が対向車線に停まっていた時は「こんの野郎―!」的に目くじらてて「一周回って店の正面に停まらんかい!」と鼻息も荒く運転手を罵倒したものでした。
これも、酔っぱらったお客様に道を渡らせるという危険を避けるためでした。
接待は最後のお見送りが印象のすべてです。
ホストの方は酔っ払いに肩を貸し、お土産をお渡しし、それはもう大変な気をお遣いになられます。最後の最後で路肩と車のドアの隙間に足を突っ込んでゲストが足をくじいたなんてミソがついたら台無しです。
皆様のお父様もこうしてお仕事をなさっておられるのです。
リアル料亭・ガチ仲居番外編 手塚エマ @ravissante
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