第31話
川に流された女の髪は、解け乱れて、きっとあんなふうに広がるのだろう。
空にさらさらと広がり、いきなり
「逃げて! 橋姫に捕まってるわよ。
もうちょっとあわててよ!」
なんで髪の毛にまきつかれてるのに、二人とも平然としてるのよ。
そういうの、剛毅って言わないよ。
鈍いのよ!
ごうっと強い風が吹く。
橋姫はゆらりと体を揺らがせ、長い黒髪はちぎれみだれた。
だが消滅させるところまではいかなかった。
彼女は目も鼻も口もはっきりしない顔を
『引きずりこまれるぞ!』
「もう一撃、いける?」
『大丈夫だが、次で決まらなければ、俺は一度力を遣い果たして還ることになるかもしれん。
そのあと、おまえにできることはいくらもない』
「そんな……っ」
さすがに、
このままでは、まずい。
殺られる。
どう動く?
一撃にかけるか。
それとも、近づいてきたものを切るだけで、とりあえず
咄嗟の判断に迷った
払う!
幸いなことに、今、自分は一人ではないのだ。
そのまま、
ふたたび風が起こる。
橋姫の姿が揺らぎ、か細い悲鳴が上がった。
それと同時に、
あちら側に戻されてしまう。
「橋姫は、あんたたちの横にいる。
左側!」
「今のうちに、弓を射って!」
もっとも頼れる相方を失った
あとは、人間の力でどうにかするしかない。
致命的に鈍いみたいだけど、信じてるわよ!
「ひ……ふみよ、いむなや……ここのたり」
橋姫は、異界に人を引きずりこむ。
でも、そんなことはさせない。
この世界に、踏みとどまってやる。
「ふるえ……、ゆらゆらのと……ふるえ……」
この世の外のものである
しかし、しんと心を静めて祝詞を唱えだした
彼はなにか言いかけた傍らの
そして、大きく弓をつがう。
腕が、なめらかに動く。
大きな弓なのに、
一閃。
まばゆい光に、
「すごい……」
弓はねらい違わず、橋姫を貫いている。
その途端、彼女は断末魔の悲鳴を上げた。
大きく姿がゆらいだかと思うと、彼女は足下から消えていく。
そして、あとには宵闇だけが残った。
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