(一)
私の人生は空虚でした。
それは人並みの空虚で、それゆえに誰よりも空虚だったのです。
私の理解者はどこにでもいました。
街行く百人が私の苦悩にこう声をかけてくれました。
「私もそれで苦しんだよ」
それで私は少し安心し、しかし空虚はその安心で埋まるようなものではなかったのです。
私を満たせる人はどこにもいませんでした。
暴食は大罪だと、命を食うことは罪であるとわかっていても、私の空洞は善では満たされませんでした。
私はきっと、私が楽になるために行うエゴイズムを、私の苦痛を理由に正当化しようとしていました。
醜く、浅ましい生き物でした。
凡庸さに安心する私は、同じ心で特別を欲していました。
否、本当は生まれながらに特別であると思いたかったのです。
それができないとわかってしまったから、普通であることに活路を見出そうとしたのです。
ですが、本当に普通の人間というのは、善性を持っているものでした。
私は私の中に、それを探しました。
見つからないと理解してしまう前に、模倣して、持っているふりをすることを覚えました。
それはきっと、巧妙だったのでしょう。
誰も私の欺瞞に気が付きませんでした。
あるいは、誰も私にそれほど興味はありませんでした。
満たされない欲から目を背ける日々は、実は意識さえしなければそれほど辛いものではありません。
そんなものはないと思えば、辛さもないのですから。
そうやって全てが輪郭を失って、ぼんやりとして、溶けていって。
そうして私はいつしか生き疲れていました。
意味がなかったのです。
生きる意味が、何も。
そしてある日、私は死神に出会いました。
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