三題噺「慌ただしいキッチン」「キーボード」「叩く」

「何やってんだ!」

電話がかかってきたと思えば、第一声がこれである。


今日は何も無い平日。そんな日でも店を開けなければいけない。店長としての責務である。

「今日の目標は30万円……。でも無理だよなあ。お相撲さん100人降ってこねぇかなあー」

店長になったころは、自身の店を如何に繁盛させるかばかり考えて過ごしていた。けれども実際のところは、ピーク時を除けば裏方業務ばかり。要は暇な時間が多いということだ。そして本部からの売上目標が達成できず、電話を受ければいつも怒られてばかりだった。やる気というものはとうに失いかけていた。身についたものはマーケティング力ではなくスルースキルと対人関係を悪化させない能力だけ。本当はこうなりたいわけじゃなかったのにな……


しかし、日常は簡単にして崩壊するものであった。


営業終了間際に電話がかかってきた。

またいつものか……と思って電話をとる。

「お電話ありがとうございます。こちら……」

「すみません!明日20人の予約って行けますか!」

「あっえっ……はいお席のご用意はできまs……」

「本当ですか!ありがとうございます!」

……とまあ、こんな調子で大規模なお客さんが来ることになっちまいました。

飲み会をうちでしてくれるらしい。なんでだろう。会社が近かったのかな?

……とにかく、明日は忙しくなるな。ホールは自分が出ればいいとして、キッチンの人手足りるかな。

今は締め作業中だろうから、声掛けてみようか。

「小林さーん、明日夜20名様の予約入ったんだけど、今のシフト通り一人で行けそう?」

「あーついにこの時が来ましたか!やってやりますよ!」

「えっ元気だね、いやありがたいけど」

「なんだかんだで今までゆるーくやれてたっすからね。本領発揮できるチャンスっすよ!」

「頼もしいねぇ、よろしく頼むよ!」

「了解でーす、あっ売上行ったらジュースくださいよー」

「しょうがないなぁ」


ジュース奢ることになったけど、なんとかなりそう。よかった~。小林くんマジ天使。昇給させてやりたい。

今日は本部からの電話も来なかったし、さっさと日報打って今日のところは帰りますか。


あれ、バックスペースキーが壊れてる。まあDeleteキーでどうにかなるし、良いか。

……あれ、Deleteキーも壊れてる。ってかエンターキーも?


「……ちょー!店長!」

「っっっ!!!」

「ハハッ店長何やってるんすか!本部から電話ですよ!」


日報書こうとしたら寝てたらしい。なんでだろう。

とりあえず電話出るか。

「もしもし」

「どーも。明日は頑張ってな。それじゃ。」


「??????」

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三題噺 @pokebee

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