第5話 彼女

物語の舞台は静かな街の片隅にあるカフェ。毎日そこに足を運ぶのは、大学生の千尋と彼女の美月だった。二人はどこか遠くからやってきた、少し不器用だけど、心優しい人たちだった。


ある日、千尋はいつも通りカフェで美月と待ち合わせをしていたが、その日は少し違った。美月がいつもと違う表情で、少し悩んだ様子でやってきたのだ。


「千尋、今日は話があるんだ。」


美月の言葉に、千尋は少し緊張して席を立ち、彼女の前に座った。


「どうしたの?何かあった?」


美月は深呼吸をしてから、ゆっくりと語り始めた。


「実はね、私…好きな人がいるの。千尋、あなたに言うのが怖かったけど、隠しきれなくなった。」


千尋は胸が痛くなった。心のどこかで、こうなることを予感していたのかもしれない。しかし、冷静に美月を見つめ、優しく微笑んだ。


「その人、誰?」


美月は少し躊躇いながらも、目を合わせた。


「それが…千尋、実はあなたなんだ。」


千尋は一瞬、理解できなかった。美月が自分に恋している?それがどういうことか、一瞬で整理するのが難しかった。美月の視線をじっと見つめたあと、彼女は続けた。


「でも、私の気持ちは一つだけじゃない。あなたも大切に思っているけれど、実はその先にいる人も同じくらい私にとって大切な人なんだ。」


その瞬間、千尋は胸が震えるのを感じた。美月が愛しているのは自分だけではない。その「先にいる人」とは、まさか、自分のことだったのだろうか。


「私、あなたに全部を話さなきゃと思った。二人の気持ちを大切にしたい。でも、どうしていいかわからなくて。」


千尋はしばらく黙っていた。心の中に様々な感情が渦巻いていた。だが、その時、ひとつだけ確かなことがあった。


「私も、美月が大好きだよ。」


美月の瞳が少しだけ涙で潤んだ。その瞬間、二人の間に言葉では言い表せない絆が生まれた。


「でも、私たちはどうしていくべきなんだろう?」


千尋は目を閉じ、静かに答えた。


「大切な人が二人いるなら、その愛し方を見つけることが大事なんだと思う。私たちの愛は、形にこだわらず、心でつながっていけばいい。」


それから二人は、少しずつ時間をかけて、互いの気持ちを理解し合っていった。時には悩み、時には迷ったけれど、心の中でお互いを大切にし合うことを選んだ。愛することは、ひとつの形に決めつけるものではないと、二人は学んだのだった。


そして、千尋と美月は、歩み続ける。愛というものが、ひとつの心にどれだけの優しさと強さを与えるかを、二人はまだ知らなかったけれど、その一歩を踏み出したその瞬間が、すべての始まりだった。



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