第2話 二人
夕暮れ時、街の裏通りに集まったのは、荒れた雰囲気を漂わせる不良たち。煙草の煙が立ち込め、軽く足を踏み鳴らす音が響く中、互いに睨み合う二人の少年。
一方は、髪を逆立て、革ジャケットを羽織った「キクオ」。目には冷徹な光が宿り、周囲を支配するかのような威圧感を放っている。彼の右手には古びたナイフが握られている。
対するは、少し年上で背が高い「アキラ」。ジーンズにTシャツ、腕にはタトゥーが見え隠れしている。普段は穏やかながら、この日は何かが違う。目に宿る怒りの火花が、キクオをじっと見据えている。
「お前がこの街のルールを壊したんだろ?」アキラの声は低く、だが明確だった。
「ルール? そんなもん、俺にゃ関係ねぇよ。」キクオが笑みを浮かべながら、ナイフを少し揺らす。
「それなら、今度こそ決着をつけるだけだ。」アキラは拳を握りしめ、その腕を伸ばす。
周囲の仲間たちが一歩後退し、彼らの対決に集中する。血走った目、震える空気。次の瞬間、キクオが動き出すと、アキラも反応し、二人の間に鋭い音が鳴り響いた。
暫くして、アキラとキクオの決闘が終わった後、しばらくの間、両者はお互いを睨みながらも、互いに何かしらの誇りを持ってその場に立っていた。だが、周囲の仲間たちが集まり、しばらくの沈黙の後、アキラが口を開いた。
「お前、普段はこんなことしないんだろ?」アキラが少しだけ優しげに尋ねると、キクオは肩をすくめた。
「そんなことねぇよ。」とキクオは短く返しながらも、どこか遠くを見つめる眼差しが切なさを湛えていた。
アキラはその視線に気づき、少し間を置いてから、静かに言った。「お前、家のことか?」
キクオはその問いに一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに何事もなかったかのように振る舞おうとした。しかし、アキラの鋭い視線がその心の奥に触れたのを感じたのか、キクオは長い息を吐き出し、とうとう言葉を漏らした。
「…ああ。家がな、どうにもならなくて。親も、弟も、もうみんなあそこにはいねぇ。」キクオの声は低く、少し震えていた。まるで無理に強がっているように聞こえる。
アキラはその言葉に黙って耳を傾けた。自分もまた、同じように家族との関係で痛みを抱えていたから、キクオの言いたいことがよくわかった。
「俺も似たようなもんだ。」アキラは肩をすくめながら言った。「でも、だからって、街を壊すのは違うって思ってる。お前だって、そんなことしたくないんだろ?」
キクオは一瞬黙ったが、やがてゆっくりと頷いた。「…わかってる。でも、どうしても街の奴らに飲み込まれてしまってさ。こんなことばっかりしてたら、自分がどうなるかわかんなくなってくるんだ。」
「それでも、俺たちにはまだ、やり直す道があるはずだ。」アキラの声は、どこか確信に満ちていた。「お前がもう一度、自分を取り戻せる場所が、ここにあるって思うんだ。」
キクオはしばらく沈黙した後、目を伏せながら言った。「…俺はもう、遅いんじゃねぇかって思う。」
その言葉に、アキラは少し笑ってみせた。「遅いなんてことはない。お前みたいな奴でも、いつだって変わるチャンスはある。俺だって、いろいろと失敗してきたしな。」
キクオは少し考え込み、そして顔を上げると、アキラの目を見つめながら言った。「お前、なんで俺にそんなこと言うんだ?」
アキラは無意識に肩をすくめた。「ただの気まぐれさ。」
その言葉に、キクオは思わず笑いそうになったが、すぐにその笑顔は消えた。しかし、その表情にわずかに変化が見られたことに、アキラはほっとした。
「よし、俺たち、ちょっとだけ飲みに行こうぜ。昔みたいに、バカみたいに騒いでさ。」アキラはそのままキクオに手を差し出した。
キクオは少しだけ戸惑い、そしてその手を握り返した。「お前、案外悪くないな。」
二人はゆっくりと歩き出した。決闘という形ではあったが、今やそれは過去の一幕として、互いに何かを分かち合うきっかけとなった。どちらも心の中に少しずつ変化を感じながら、街のざわめきの中を歩き続けた。
過去の痛みや、無駄に見える争いを経て、二人の間にほんの少しの信頼と理解が芽生えた。これからのことはわからないが、少なくとも今は、分かり合えた瞬間があった。
そして、いつかまた、もう少し強くなった自分たちで再び会う日が来ることを感じながら、二人は歩みを続けた。
この後、二人がどんな形で成長していくのか、街をどう変えていくのかはわからなちが、少なくとも彼らは新たな一歩を踏み出した。
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