第3話


あたし、リコ・グレイル。

全寮制でもある『アラステア王立学術院』に入学したばかりの新1年生。


天使の祝福を受けたとされる大陸ヴェルシリカ。その真ん中に小さな国アラステアに王立学術院があって。長い戦乱のあと百年の平和を守るため、国境を越えて多くの生徒を受け入れた。


学び育った彼らが敵対するのではなく、お互いの価値観を知り友として絆を結ぶように。と、言われている。



けど、そんなのあたしには関係なくて、学術院に入学してから連絡をくれない兄レン・グレイルを追いかけたという理由が大きい。



ママとパパに無理をいって入学させて貰った。

いつの日か、レンと一緒に見た小さな花をレヴィバリーに色鮮やかに咲かせるために。



せっかく入学できたのに、悲しいことに寮は別々。でも、クロヌスの鍵を使ってレンの部屋にはいつでも行けるし。


今まで離ればなれになっていたんだもん。同じ学術院の敷地内で過ごせるなんて、幸せなことだわ。



朝は苦手。小さな欠伸に手のひらを乗せた。


大きな窓からさす陽差しは、雪銀色の反射光で過ごしてきたあたしにとって、明る過ぎるもの。

生まれ故郷のサヴィレリーは積雪の地域であり、陽の光が射すことさえ少なかった。起床する刻の時にも暗く、淡い橙色のランプの明かりを必要としていたのだから。



制服に着替えて、急いで学術院に向かう準備をする。レンのお揃いの色素の薄い銀色の長い髪の毛を高く耳の上で2つに結んだ。

慌てて、寮から飛び出せば、太陽の日差しがこんなにも眩しくて、くらくらした。白い肌をじりじりと射して、溶ける様に痛いのもまだ慣れない。



アラステア王立学術院は迷子になりそうなくらいに大きな敷地に建てられている。毎年、新入生は迷子保護されるんだとか。研究、教育に力を注いでいるとはいえ、どれだけ国はお金をかけてるのかしら。本当くだらないわ。


パタパタと院の廊下を走っていると、何人か同じ制服を身に纏う人達とすれ違った。

魔法学部植物科1年。やっと自分の教室にたどり着いて、息を吸って吐いて深呼吸をしてから、木製の重い扉に手を置いた。


ギギッと軋む音が体にも響く。




「なぁなぁ、コイツってばさぁ。昨日も俺の部屋きて兄ちゃんの膝の上に乗ってんの」


教室に足を踏み入れると同時に、嫌味な声が耳に聞こえてきた。


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