第2話
幾にも重ねられた布地の隙間から白い息と一緒に覗く、溶けかけた雪の下に隠れた雪のしずくの様な小さな花の蕾。
「リコ、ほら見てごらん。もうすぐ陽の時期がくるよ」
温かくて、柔らかい笑顔を向けてくれるレンは誰よりも優しくてあたしを導いてくれる大きな手をしていた。
そして、今も優しく抱き締めてくれる。その膝の上に乗せて──。
「レンさん!あと、その妹っ!!俺の部屋で何やってんだよ」
ベッド上に腰かけるレンの上に、あたしがちょこんと身を任せていた。
せっかくレンとの世界を楽しんでいたのに邪魔が入っちゃったみたい。
ここはアラステア王立学術院の学生寮内の部屋の1室。
寮にしては大きくてふかふかな立派なベッド。銀色の鋼タイプの机と椅子はあたし達の髪の色みたいで、寮の目印でもある葵色の小さな宝石が埋め込まれている。
半円を描く大きな飾り窓からは、とんがり帽子のお城があって、あれがあたし達が通う学術院。
「無視すんじゃねーよ」
あたし達の目の前で、大きな声を荒げるのはレンの寮のルームメイトのモナだ。
眉間に皺を深く寄せて、悪態をついてくる。
年上にも敬語を使えない、礼儀知らずの馬鹿な男は無視に値するので、プイッ顔を横に向けた。
「リコが離してくれないから、仕方ないよ」
みかねたレンが、あたしの銀色の頭を優しく撫で下ろして、穏やかな口調をみせる。
流石、あたしのお兄ちゃん。対応が穏便で柔らかい。きっと社会に出てもその性格で世の中を上手に渡る事ができるわ。
「レンさんは甘過ぎる!」
それに比べてこの青猿、叫ぶことしか出来ないのかしら。不思議に思って眉間に皺を寄せて首を傾げたところで、余計に騒ぎだす始末。
あたしはレンの首の後ろに強く手を回してゆっくりと瞳を閉じた。うん、落ち着くわ。
「リコ。そろそろ、時間だよ」
「……え」
「消灯時間だから帰らないとね」
「あたしまだ一緒にいたい」
「駄目だよ。寮の部屋に戻りな」
レンがそっとあたしの背中に回された両手を優しく剥がすから悲しくなった。
「はーーい……。レン、おやすみなさい」
あたしがしょぼんと眉を下げれば、にっこりと微笑みをみせるから。胸が温かくなっていく。
ちゅっとレンの柔らかくて白い頬に、おやすみのキスを1つ落とした。
「あああー、やってらんねぇ!!」
すぐ隣で、両手で頭を抱えるモナの舌を巻いたような声が聞こえてきたような。
いや、あたしの気のせいね。
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