銀色世界の花びら1つ

みかんの実

第1話 prologue



窓の外には、真っ白な銀世界が広がっていた。


棘のある宝石のような固まりが、空から零れ落ちる瞬間。あまりに幻想的で、子供ながらにも綺麗だと思った。


何度目を擦っても、雪に包まれた景色が変わることはなくて。紅く染まる世界はなかった。


陽が昇る時間は短く、雪はどこまでも白く深い。

扉を開けてしまえば、足の指先までたちまち凍りついて、粉々に散ってしまうから。

この町は殆どの時を家の中で過ごす小さくて閉鎖された世界でしかない。


その小さな唇から吐き出される白い息、幼さの残る笑顔さえ、いつしか凍りついてしまうだろう。


「レン、あの子怪我をしているわ」

「本当だ」


白い雪に埋もれた白兎を抱き締めて、鼻を真っ赤にさせる女の子。眉をさげて泣きそうになりながら、俺の手をぎゅっと握る。


いつまでも変わらないで欲しいという願い。

世界を知らない女の子。

この小さな部屋で、何も知らずに一生を終えて欲しいと思うのは──。

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