第7話 嘘

 旦那さんが帰った後、葉子は志織がいつものように物置部屋に行くことを許さなかった。

 葉子は志織を座敷で正座させると、志織の正面に自分も座わった。

 志織は怯えるでもなく、平然とした顔をしていた。それがまた葉子の癪に障った。


「なんで、あんな嘘をつくんだい?」

 志織は答えなかった。


「嘘をついたら、閻魔様に舌を抜かれるって言っただろう。志織は閻魔様に舌を抜かれても良いんだね?」


「嘘なんてついていないもの」

 その声は、か細くもなく涙ぐんでもおらず志織があまりにもはっきりと嘘を言うので、葉子はその頬を平手で打った。


「嘘をお言いでないよ!あたしは、教えた覚えはないよ!」

 それでも志織は黙ったまま答えない。


 葉子は志織の両肩に手をかけて、身体を激しく揺さぶった。

「なんで、嘘をつくんだい!」


「だって、おかあさまが教えてくれたもの!」


「まだ言うのかい、この子は!あたしがいつ、あんたに教えたって言うんだよ!」

 葉子はまた平手を振り上げた。


「嘘じゃないもの!本当だもの!」


 葉子の手が止まった。

 葉子に真っすぐ向けられた志織の目はとても嘘を言っているようには見えず、むしろ自分を信じない葉子への怒りすら感じられた。


 もしかして、あたしが忘れているだけなのだろうか?志織の表情に葉子は、途端に不安になった。長屋に居た頃なら確かにそういうこともあったが、ここに引っ越して来てから志織に字を教えてやったことなどあっただろうか。ましてや新聞に載っているような難しい字を。それをこれっぽっちも覚えていないなんてことがあるだろうか・・・・・不意に葉子は旦那さんが新聞を読んでいる時、志織がよく横から覗き込んでいたのを思い出した。そうだ、志織は勘違いをしているだけだ。本当は旦那さんに教えてもらったのを、あたしが教えたと思い込んでいるのだ。


 葉子は志織に、もう行って良いと言った。

 志織は不服そうに唇を噛んでいたが、黙って本を手にすると物置部屋に入り襖を閉めた。

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