第2話 志織
葉子はこの家に引っ越してきてから、旦那さんが来ない日も慣れない家事のせいで忙しく過ごした。
今まで掃除や洗濯などを全くしてこなかったわけではないが、一人で全ての家事をこなすようなことはなかった。志織を身籠って芸者をやめてからは旦那さんが手伝いの婆さんをつけてくれていたが、ある日その婆さんが自分の事を囲い者だと陰口を叩いているのを知って、この家に引っ越すのを機にやめてもらった。芸者あがりでお高くとまっていると言われたのも癪であった。
葉子は根っからの負けん気の強さもあり、掃除ひとつとっても非の打ちどころがないようにと毎日、家事に励んだ。だが思うようにいかないこともあり、苛立ちからか怖い顔をしていることも多かった。
そんな時、志織は物置部屋でひとり長持を背もたれにして本を読んだ。長持はひんやりとして気持ちが良かった。
葉子が家事の合間に物置部屋の前を通りかかると時折、中から志織の声が聞こえた。小さな声なので、何を言っているのかまでは聞き取れないが、声を出して本を読んでいるようだった。
自分が構ってやれないので寂しい思いをしているのかもしれないと思いながらも、志織がこうしてひとりで遊んでくれていると葉子は家事に専念できるので、結局は声をかけずにそのままにしていた。
そのうち旦那さんが来る日以外の日中のほとんどを志織は物置部屋で過ごすようになったので、洋子は次第に気を揉むようになった。
せっかく友達が出来るようにと小學校に上がる一年も前から越してきたのに、これでは友達なんて出来やしない。もっと外でも遊ぶよう志織に言って欲しいと洋子は旦那さんに訴えたが、旦那さんは小學校に上がれば自然と友達は出来るものだからと取り合わず、むしろ志織はたくさん本を読んで偉い子だと志織の頭を撫でた。
旦那さんがそう志織を褒めるのを葉子は少し不満に思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます