第3話
「……へぇ」
#リアル鬼退治 というタグが急速に拡散され、トレンド3位にまで浮上している。
投稿された元ネタを遡ると――
『登録者44人の雑魚YouTuner、リアル鬼退治宣言www』
そんな煽りタイトルの動画が、炎上系YouTuner サルカ のアカウントに投稿されていた。
再生回数はすでに80万回を突破している。
「44人の雑魚YouTuner、ねぇ……」
レンはスマホをスワイプしながら、ゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。
サルカの動画を再生する。
そこには、慌てふためく1人の男の姿があった。
『え、ちょっ、勝手に撮るな!』
『いいじゃんいいじゃん、みんな、こいつ見て! 登録者44人の雑魚YouTunerが、リアル鬼退治するらしいよ!』
桃太郎TV という無名配信者。
「……バカだな」
レンは軽く笑った。
登録者44人の無名配信者が、「リアル鬼退治をする」と宣言。
それを、登録者300万人以上のサルカが取り上げた。
結果、Twippleでバズり、視聴者が「鬼ヶ島の都市伝説」に再び注目し始めた。
この流れ―― 狙ったものなのか、それとも偶然か 。
「……でも、面白い」
ClipClap(クリップクラップ) ——
短尺動画に特化した動画配信プラットフォーム。
都市伝説や考察系コンテンツがバズりやすく、YouTuneとは違った独自の視聴文化がある。
レンは考察系ClipClaperとして、都市伝説を扱ってきた。
その中でも 「鬼ヶ島」 は、ここ最近で最も バズる可能性のあるネタ だった。
ただの昔話の舞台じゃない。
ネットの考察界隈では 「地図にない島」 として話題になり、オカルト好きの間では 「政府に隠された危険区域」 とすら噂されている。
そのネタが、今、サルカの投稿で 再び注目を集めている 。
「ふーん……話してみる価値はあるかもな。」
サルカの投稿を最後まで見届けたレンは、そのままスマホをスクロールし、サルカのアカウント情報を確認する。
YouTuneを中心に、彼女の影響力は圧倒的だ。
投稿すれば数十万、時には百万単位で再生され、コメント欄は常に賛否両論で荒れ続ける。
今回の投稿も例外ではなく、瞬く間に拡散され、トレンドを席巻していた。
レンは迷いなくDMを送った。
──@TakaRen_Official:「いいネタを転がしてくれたな。少し話さないか?」
送信完了。
「さて――どう出る?」
レンはソファに深く腰掛け、じっとスマホの返信を待った。
DMを送ってから、ほんの数十秒 で返信が来た。
──@Saruka_Fire:「へぇ、考察の人? がわざわざDM? どしたの?」
サルカの反応からして、こちらを詳しく知っているわけではなさそうだ。
──@TakaRen_Official:「君の投稿、面白かった。直接話せるか?」
──@Saruka_Fire:「別にいいけど。 どこで?」
──@TakaRen_Official:「そっちが決めていい。」
──@Saruka_Fire:「んじゃ、ウチでいいやw 外出るのダルいしw」
──@TakaRen_Official:「そっちの家はどの辺だ?」
──@Saruka_Fire:「ざっくり○○エリア。駅から徒歩10分くらい」
レンはスマホで地図を開き、○○エリアを検索する。
移動時間をざっと計算し―― 行ける距離だな、と判断した。
──@TakaRen_Official:「了解。今から向かう。」
──@Saruka_Fire:「は? 行動早っw まぁ別にいいけどw」
──@Saruka_Fire:「あー、そういやもう一人いるけどいい?」
──@TakaRen_Official:「誰だ?」
──@Saruka_Fire:「桃太郎w」
──@TakaRen_Official:「……例の彼か?」
──@Saruka_Fire:「正解w さっき撮影してたから、そのままウチにいるw」
──@Saruka_Fire:「せっかくだしまとめて話そw」
──@TakaRen_Official:「問題ない。」
送信完了。
「……なるほど」
レンはスマホをポケットに突っ込み、椅子から立ち上がった。
バズったばかりの無名配信者と、炎上系YouTuner。
そこに考察系の自分が加わる――悪くない組み合わせだ。
「さて――行くか」
○○エリアの駅を降り、レンはスマホの地図を確認しながら歩いた。
目的地のマンションは、ガラス張りのエントランスが特徴的なデザイナーズマンション。
新築ではないが、まだ新しさが残り、都心の高級住宅街に馴染むような洗練されたデザイン だった。
エントランスにはオートロックと監視カメラ。
管理人室には常駐のスタッフがいるようで、外部の人間が簡単に出入りできる雰囲気ではない。
「……人気配信者らしいな」
軽く呟きながら、レンは部屋番号を確認し、インターホンを押した。
数秒後、スピーカー越しに軽い声が響く。
「おー、行動早っ。マジで来たんだ」
「そっちが呼んだんだろう」
「はいはい。じゃ、開けるわー」
ブザー音とともにオートロックが解除され、レンは無言で中に入る。
エレベーターで指定の階まで上がり、サルカの部屋の前で足を止めた。インターホンを押すと、ほぼ同時に扉が開く。
サルカはスマホ片手に、カジュアルなデニムとトップス姿で出迎えた。
ちらりとレンに目を向けると、特に驚くでもなく、「おっす」と軽く片手を上げる。
「まあ適当に上がってよ」
軽く肩をすくめながらそう言い、サルカはすぐスマホの画面に視線を戻す。
レンは靴を脱ぎ、玄関から中へ足を踏み入れる。リビングへ続く廊下は意外とすっきりしており、壁際にはシンプルな棚が並んでいた。目立つ装飾はないが、いくつかの棚には開封済みの宅配ボックスや動画撮影用の小道具らしきものが雑然と置かれている。
奥の部屋からは、かすかに電子機器の稼働音が聞こえる。サルカはリビングのドアを押し開け、軽く肩越しに振り返った。
「適当に座って」
レンは無言で歩を進め、リビングへ入った。
室内を一瞥する。生活感はあるものの、床には余計なものがほとんどなく、動線は確保されていた。
「……意外と整頓されてるな」
「片付けたんだよ、動画に映るからね。つーか、ほら、そっち」
サルカが親指でソファの方を指す。
そこには――
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