第7話奴隷商の仲介業者

 いつもの荷物を背負いツルハシ担いで奴隷屋敷を出ようとしたところで、ゲッヘッヘと笑う男が強欲ババアにあしらわれていた。


「あ、オッチャン。久しぶりー」

「ばっ、アウグさ……じゃねぇ、アウグ! おまえ、世間の目ってあんだから気をつけろ!?」


 その名はグルテン。

 このオッチャンは奴隷にも同情してくれて実は結構いいヤツなのだ。


 強欲ババアの奴隷商の仲介者がオッチャンだけというわけではなく、数いる仲介業者の1人だ。


 ほとんどの仲介業者がオッチャンのようにいいヤツではないので、奴隷が売られる時はオッチャンが仲介することが多い。


 そうはいってもオッチャンのような仲介業者は奴隷の小僧になめられるわけにはいかないのだ。

 そこで脅したり殴ったり蹴ったりするもんだが、このオッチャンはそういうことはしない。


 こっそり奴隷の子供にお菓子をあげたりしてしまう。

 オッチャンこういう仕事、向いてなくない?


 オッチャンも含め、この仲介業者たちが来ると、その後で誰かが売りに出されることが多い。

 僕もどこかに売られてしまうと、こうして呑気に穴掘りに勤しむことはできないかもしれない。


 なんだかんだと言っても、奴隷でも自由にやらせてもらってると思うべきか。

 いや、根こそぎ強欲ババアに持っていかれているから感謝なんてできないな。


 強欲ババアが良い値段で奴隷たちを売りさばくのだろう、仲介業者として奴隷を買い叩きたいオッチャンは苦い顔だ。


「ちょうどいいや、アウグにも聞いてみな」

 強欲ババアがキセルを吸ってふーと息を吐く。


 なにをさ?


「アウグさ……アウグに? いやいくらなんでも……」

 そう言いながらオッチャンは俺を見て口を開いた。


 毎度のことだが、『アウグさ……』の後に続くはずだった言葉、なに?

 僕は大人の対応で聞かないフリをする。


 オッチャンは戸惑っていたわりにあっさりと悩みを僕に相談した。

 強欲ババアの戯言ざれごとに乗せられおってー!

 奴隷になにを聞く気だ?


「組織の人間がどうにも忠誠が薄くてな。なんとか目標に向かって一丸となる手立てはないものかとな」


 うん、やっぱり奴隷の僕に聞くことじゃない。

 なので僕は無責任に適当に答える。


「十分な金は渡してる? 人の欲を満たさないのに忠誠を誓えとか寝言は言ってないよね?」


「……いや、忠誠は金で買えるものでは」


 いや、組織って奴隷商の仲介業だよね?

 アンダーグラウンドの世界で忠誠とか、ますますもって無理じゃね?


「忠誠でもなんでも、それは己の欲を満たしているに過ぎない。誰かに従って欲しいなら、その欲を上手に満たす方法を考えるべきだ。その欲は人の数ほどあるし、誰も同じ人はいない。ほら、お金があればパンも買えるし、欲しいものも買えるからね!」


 僕はお金を否定しない。

 お金は欲望と結びつきやすいのは、凡庸性がとんでもなく高いからだ。

 それで大切な人を守るのだからお金をバカにしてはいけない。


 オッチャンもわかってるはずだ。でないとこういう商売はできていない。

 ただ迷いを吐露しただけなんだろう。

 それとも迷う何かがあったんだろう。


「じゃっ、僕は穴掘りに行くから!」

 話は終わりと僕は締めくくって逃げる。

 これ以上、足止めを食ってたまるか。

 僕は穴掘りに行くぞ!


「自由だな、おい!?」

「僕はこの金のツルハシで金目のものを手に入れるのだ!」

 なんとなく金のツルハシを作ってみた。

 そして今日はそれで穴掘りをするのだ。


「ああ、ちょうどいい。それをアガリに貰おうかね」

 強欲ババアに金のツルハシを奪われた!


「なにすんだ、強欲ババア! 僕んだぞ、返せ! 見ろ、造形美までこだわった繊細な造り、陽光で輝いて見える逸品だぞ!」


 いつものように強欲ババアの手に向けてぴょんぴょんとジャンプする。


「お、おい!?」

 そんな僕らを見てオッチャンも戸惑いの声をあげる。

 ぐぬぬ、オッチャンも手伝え!


「こんなもんで土が掘れるわけないだろ? 金なんて柔らかいんだ、金持ちの飾りにしかなりゃしないよ」


 ピタッと止まる。

 そういや、そうだ。


 だが、僕は少し考える。

 考えるのが面倒になって、ぴょんぴょんと飛びつくのを再開する。


「それでも! 勝手に奪われてたまるか!」

「いい〜出来じゃないか。これなら満足だろ」


 今回は金のツルハシをサッとオッチャンに渡してしまいやがった。

「えっ、おい? 良いのか?」


 しまった、グルテンゆえにグルだったか!?


「押さえとくから大丈夫だよ」

 強欲ババアに後ろから抱き締められる。


「僕ンダゾー、返セー」

 大人しく抱き締められるまま僕はそう主張する。


「棒読みじゃねぇか……」

「……こっのエロガキ」


 改めて言おう。

 強欲ババアと僕は呼ぶが、まだアラサーでくたびれてはいても枯れている年でもないし、着飾れば見栄えもする……というか、かなりの美女だ。

 あと抱き締められると良い匂いがする。


 くやちい。


 こうして僕が夜なべして作った金のツルハシは借金のカタに奪われた。

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