第5話深き地下世界への誘い

 金を強欲ババアに納めて今回はおしまいでも良いが、僕の飽くなき欲望はさらに掘り進めよと叫んでいる。


 こういう勘には従うべきだ。

 もっとも欲望に染まった勘ほど外れやすいのも事実である。

 ギャンブルが証明している。


 それでも人はその欲望から目を背けることができない。

 その代償が命だとしても。


 なぁんてね。


 よく言うじゃないか。

 深淵を覗くとき深淵もまたおまえを見ている。

 深き穴の底には深き穴があるってね。


 欲望と思いつきだけで行動するとそんな目に遭う。

 だが、それでも人はそれを繰り返す。


 ああ、なんて悲しき生き物……あ、金ゲット。


 僕は暗い大きな洞窟の中で、鉄のツルハシを振りながら、そんなどうでもいいことを考える。


 現状を説明しよう。


 明かりは手元のランタン一つ。

 ヒカリゴケが反射してそれなりの広さまで見えるが、光に届かぬ先は当然のように闇が広がっている。


 うむ、遭難である。


 最初に明日には暗い穴の底にいることもあるとか言ったけど、見事にフラグを回収したな。


 この調子で金も回収したいものだが、ギャンブルと一緒で、金(命)を注いでも返ってくる保証はまったくない。


 ちなみに僕がどうしてこんな場所にいるかといえば、なんのことはない。

 軽快に穴を掘っていると、底がスポッと抜けて落ちて、落ちた底が大きな洞窟だったのだ。


 下に水が溜まっていて助かった。

 上を見上げると10mほど先に人が落ちてしまうぐらいの穴が空いている。

 あそこから落ちたのである。


 これが大きな空洞なのか、それともダンジョンなのかは不明である。地下世界とダンジョンは明確にその在り方が違う。

 地下世界は自然物、ダンジョンは魔法的な歪みが生んだ遺物、である。


 同じ地下に存在するものなので、掘っていると偶然にダンジョンにぶつかってしまうこともある。


 ダンジョンには普段は見つからないような宝が見つかることもあるが、危険なモンスターも出現する。


 ここがどちらなのかは今のところわからない。


 なお、地下世界が変異しただけのダンジョンだと比較的危険は少ないらしいが、ダンジョンの中でも古代の魔術師や魔王が作ったもの、もしくは天空から堕ちたというダンジョンなんかは極レベルの危険度だ。


 滅多にはないし、そういう場所はあっという間に発見されて、欲望を増大させた国や冒険家や商人がこぞって群がっている。


 そして伝説へ!


 それにそういうダンジョンはヒトを奥深くに惹きつける引力のようなものがあるらしく、英雄と呼ばれるほどの力を持つ者ほど奥深くに誘い込み帰すことがないとか。

 なので、入った初日に全滅することもザラにあるそうだ。


 くわばらくわばら。


 それでも人はそこに潜る。

 そこにはヒトを惹きつける様々な財宝や力があるからだ。


 ダンジョンなら落ちた時点で、モンスターが襲いかかってくるような場所だから、多分、地下世界のほうだろうなぁー。


 ダンジョンと地下世界の決定的な違いは悪意の有無だ。地下世界は自然物ゆえに悪意はない。

 人には厳しくとも、そこには地上と同じ大自然があるだけだ。


 なお、ダンジョンであっても日の光が当たっている場所、もしくはランタンでも松明たいまつでも一定以上の光量さえあればモンスターは出てこないともいう。

 もしくはランタンや松明に独特な魔除け文字を刻むからという理由だそうだ。


 ちなみに魔除け文字を刻まなくても効果があるとかいうけど、まあ、縁起物えんぎものなので僕は魔除け文字を刻むようにしている。


 もちろんランタンやたいまつの届かない先の闇から、モンスターが出てくることもあるので、完全に安心というわけでもない。


 モンスターが出てきたら穴を掘って隠れるか、走り回って逃げ切るか、戦って倒すかである。


 周囲に気配を配りつつ、夢と希望を抱いて土をさくさくと掘り進める。


 さくさく……。

 さくさく……。

 土しか出てこねぇ。石も出ねぇのはどういうつもりだ?


 しばらく掘っても何も出てこないので、こうなれば洞窟内を探索して鉱石や宝石の原石などのあたりをつけて探すべきだと、僕は柔軟で臨機応変な対応を心掛けることにした。


 つまり行き当たりばったり作戦である。


 ベテラン鉱夫ともなれば感覚的に鉱石のある場所がわかるという。僕はそれをニュータイプな人の革新だと定義している。


 一般奴隷の僕にそんな力を期待しても無駄なので、ギャンブルのごとく今回も適当に掘ってみようと思う。


 そしてふと後ろを振り返ると、広い闇の洞窟の中に牛がいた。


 それもそんじょそこらの牛じゃない。

 荒々しきツノを持った猛牛である。

 ちなみに人型などではなく、ちゃんと4本足の猛牛である。


 うん、ちょっと穴掘りに集中し過ぎたみたい。


 神話の話をしよう。

 その昔、モー、フー、フウという3匹の牛がいた。

 3匹の子豚かよ、とか思ったことは秘密だ。


 あるとき、3匹の牛はライオンに襲われて洞窟に逃げ込んだ。

 それによりライオンからは無事に逃げることはできたが、3匹は洞窟の中で遭難し出られなくなってしまった。


 洞窟の中を彷徨う3匹はそこで楽園に出会う。

 なぜか洞窟内に伸びる赤茶色の草木、キノコ。3匹はそこをつい住処すみかとした。


 それから3匹はライオンから生き延びた興奮もあり大いに発情し、洞窟の中で繁殖しまくりやがったのです。

 生命の本能〜。


 以来、洞窟やダンジョンには牛が出てくるのです。


 なんでやねん。


 かつてはそう思ったし、今もそう思う。

 でもまあ、生きてればそういうもんかなぁとか思うことも多い。


 詳しい理論とか系譜とかはお金に余裕のある学者が研究したりしてるから、真実は彼らに任せよう。


 その通称ダンジョン牛だが、肉は柔らかくとろけるトロのような高級感で焼くのが1番美味いが、生食でも可という優れものである。


 毎年、それを収穫する狩人がダンジョンに入って王侯貴族から庶民までその味を楽しんでいる。

 うん、奴隷は除外ね。


 なので僕らはダンジョン牛を滅多なことでは口にはできないが、それでも一度食べればトリコになってしまう。


 ダンジョンや洞窟に出現するモンスターの中には、このダンジョン牛を狩ってご飯にするヤツもいるとか。

 それがいま、目の前に!


「ぶもーー!!」


 でも、猛牛だからね。

 そのツノを突き出し、突っ込んで来たらとっても危険だから気をつけてね!


「うぎゃあぁあああああああああ!!」


 僕は必死に逃げた。

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