第4話鉄鉱石と僕

「売りな」

「やなこった」


 奴隷屋敷の強欲ババアの個室。

 僕が手で抱えた鉄鉱石を奪われまいと抵抗しているせいで、辺りに書きかけの書類やら本やらが飛び散らかる。


 ついには強欲ババアが飛びかかり、僕は鉄鉱石の塊を守ろうとさらに身体で抱え込む。

 その上から強欲ババアが僕の身体をまさぐる。


「やめろ、強欲ババア! そんなくたびれたみだりのくせして、良い匂いがするしイロイロ柔らかくて興奮すんじゃボケェ!」

「発情してんじゃねぇよ、このエロガキ!」


 掴みかかってきていた強欲ババアは僕の言葉で、なぜか逆に身を守るように僕から距離を取る。

 はぁはぁと2人して荒い息を吐くが、その関係は奪うものと奪われるものだ。


「ああ……、ミクル姉ごめんなさい。僕の童貞は成人を前にして強欲ババアに奪われます。ゴチです」

「ふ、ふざけてんじゃないよ、このエロガキ!?」


 強欲ババアは蒸気した赤い顔で、暴れて乱れた服の胸元を隠すように襟元の裾を整える。


 うん、悪くない。

 むしろ、良い!


 アラサーといえど、英気盛んな12歳の僕は全然オーケーだ。エロガキと言われても仕方がないが、これもそれも強欲ババアが色気を放っているのがいけないのだ、仕方ない仕方ない。


 強欲ババアは離れてくれたが、いまだに僕の鉄鉱石から目を離さない。

 実際、金になるからなぁ〜。


「まあまあ、強欲ババア。これが金になるのはわかる」

「だったら、それをお寄越しよ。あんた、最近、石ばっかり掘ってきてアガリがとどこおってるだろ」


 我らは奴隷は奴隷屋敷を出るまで生活費と家賃を稼ぎ、稼いだお金をこの強欲ババアに生活のための納付金として納めねばならない。

 その生活費をアガリと呼んでいる。


 その割合なんと4割!

 その納付割合が伝説のジャポンとかいう国よりも良心的だというのは、この際置いておいて。


 稼いでも稼いでなくとも4割だから、ここ最近採取している石がお金にならないので、僕はアガリをしばらく渡していない。


 売れない石はただの石だ。


 強欲ババアは子供に限らず幼児なども拾ってきて、手元で育てて高く売るやり方をしている。


 その幼児は自らは稼げない。

 当然、育ち切るまで大した金にならないので、奴隷屋敷はいつも火の車だ。


 やり手ババアっぽいのは雰囲気だけというより、幼児を引き受けるのがそもそも金にならない。

 こだわりかな?


 でもまあ、そういうものだと僕らはどうにかアガリという名の生活費を納めて、強欲ババアがやりくりしている。


「加工した石を置いていってるじゃないかぁー」

「たしかに最近だと、麦をく石うすやらはエメが大喜びだったねぇ」

「だったらいいじゃないかぁー」


 この間も石うすに出来そうな良い大きさの石が取れたので加工して渡したら、エメ姉が大層喜んでいた。


 それまでは古くてガタついていた石うすを騙し騙し使っていたのだ。


「金にならないんだよ! あとアレはおまえがエメにあげたもんだからアガリにはならないからねぇ? それともなにかい? 今更、エメから取り上げるってのかい?」


 な、なんてやつだ!

 僕のエメ姉にそんな酷いことができるもんか!

 肩ぐらいまでの茶髪で明るく優しいエメ姉は、清楚系黒髪ロングのミクル姉と並んで僕の心の聖域なのだ。


「鬼! 悪魔! 強欲ババア!!」


 そんなことを言った。

 結局、ゲンコツ1発を頭に受けることになったが、鉄鉱石は守りきれた。


 ちくしょー。僕のプリチーな背が縮んで、さらにプリチーになったらどうしてくれるんだ!


 それだけではなく、今回見逃す代わりに次回は倍額のアガリ(金目のモノ)を納めないといけなくなった。

 倍って8割になるから、次回の収入ほぼすべてやないかい!





「今日もバーバさんとやり合ってきたのか、よくやるよ」

 奴隷部屋は大小含めて5人で一部屋。

 そのルームメイトでもあるクラウスが苦笑いを浮かべてそう言ってきた。クラウスはエメ姉と同じ14歳で仲が良い。


 でも、あと1年もしたら成人を超えるので、そうなったらきっと、エメ姉は飲み屋の店員として、クラウスは冒険者として売られるのだろう。

 僕ら底辺奴隷の売り先なんて限られているのだ。


「強欲ババアが奪おうとするから悪いんだよ。僕はこれで1発夢を掘り当てるんだ!」

 僕は鉄鉱石の塊をキラキラした目で眺める。


 実際に地下には宝石の原石なんかもあるから夢がいっぱいだ。

 どんだけ深く掘る必要があるか、掘った先に宝石や金になるものがあるとも限らないけれど。


「……おまえ、夢を語る冒険者みたいだぞ?」

「似たようなもんかもねぇー」


 これから石炭を丹念に時間をかけて高温になるコークスっていう燃料作っておいたから、これで鉄を錬成して鉄ツルハシを作るんだ。


 僕にはこの鉄鉱石が宝くじのように輝いて見えるのだ。

 万に一つも当たらないのが宝くじだという現実はさておき。


「ああ……。コークスって、あのなんだかわからない黒い物体で、アウグが近寄るなと言ってた燃料か。なんでそんな知識知ってるんだよ……」

「さあ? 捨てた親が子守唄で作り方を歌ってたのかなぁ?」


 知識を子守唄で授ける親、ちょっと病んでそう。


「たまに俺はおまえがなんでここにいるのかわかんなくなるよ……。どこでも働けるだろうに」


 僕もなんでここにいるかわかんないなぁ〜。




 次の日、早速、荷物をまとめて石のツルハシ3本、鉄のツルハシ1本、パンを3つに川で拾った布、同じく川で釣れたバケツ、蔓で編んだロープ、ワタと火をつけるための火口箱ほくちばこ、そしていつもの背負い袋で穴を掘っていく。


 もちろん手にはお手製ランタン。

 たいまつもあるよ!


 地道に集めた道具セットである。僕は今回の探索に賭けているのだ。金目のモノをなんとしても手に入れなければならないのだ!


 掘りに掘り進め300mはあるはずだが、目的のブツはもっともーっと奥深くにしかない。


 そう目指すはダイヤモンド。

 夢の金剛石である。


 あ、金の粒ゲット。

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