第3話この国の現実

 今日も今日とて、日課の穴掘りである。

 石のツルハシは問題があれど、木のツルハシよりも丈夫で長持ちである。ザクザクと土を掘る。


 さて、いきなり世知辛い話をするが、学も伝手つてもない子供が成人したとて、この世界では仕事もないのだ。


 強欲ババアがこうして手管てくだを教えたうえで娼館に行くのは、奴隷の行き先として実に良質なほうだ。


 奴隷屋敷のあるこの街はこれでも仕事がある方で、農村部から出て来た者は男女共に伝手はない。

 そのため、まともな娼館にも雇ってもらえず、路上に立って人を誘い日銭を稼ぐ人も多い。


 女はそんな具合で、男に至ってはやはり野蛮なものが多い。


 男娼、鉱山や工事現場などの仕事にありつけたらかなり上等だが、荒事専門の傭兵や冒険者、それが無理なら盗賊にもなったりする。


 冒険者は幅広い仕事を斡旋してくれたりもするが、手に職を持っているその道のプロみたいなもので厳しい世界だ。


 なお、盗賊などになった場合は2年目に生きていることはほぼない。


 入れ替わりの激しい仕事(?)なのだ。

 当然、害悪だし、人権もないし、未来もない。

 やめとけよ?


 少し前に冒険者として売られたパウズという少年は荷物持ちとして頑張っているが、その日暮らしがやっとらしい。


 強欲ババアが剣の稽古をつけていたから、そこそこの腕があるはずだが、まず鉄の剣などのまともな武器は高い。

 装備を整えてまともな冒険者稼業はいつの日か。


 傭兵は武器の貸し出しをしてくれるが、何年か前に傭兵になった奴は1ヶ月もしないうちに戦場に行かされて帰って来なくなった。


 それ以来、強欲ババアもそちらに売るのはやめたらしい。

 売った後も長くアフターケアを怠らないのが商売の秘訣ひけつなのか、事前準備も含め良心的な(?)奴隷商である。


 あと、それらを教育できる強欲ババアが意外と多彩である。ちなみに女でも冒険者になったり、力仕事に行ったりする人もいる。


 俺の2つ上の料理好きのエメ姉については飯屋へ売ることを企んでいるようで、強欲ババアが料理と男への手管を教え込んでいる。


 多くの飯屋の看板娘は給料も安く娼婦も兼ねているので、そのためだそうだ。

 生きるための手段は少しでも多い方が良いというわけである。


 あん? 国の名前とか周辺とか世界情勢とか世界観とかどうだって?


 そんなこと、今を懸命に生きる奴隷に関係があるかァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 うん、すまない取り乱した。

 朝の黒パンが詰まったせいだ、許せ。

 朝は米食が好みなんだが、この辺りでは稲作よりも麦が主流だ。


 昨日のおにぎりは岩塩を手に入れたご褒美に強欲ババアに貰ったのだ。

 飴と鞭である。


 食事の基本は蒸した芋とパン、たまにチーズ、お祝いでさらにたまにベーコンの日々だ。

 芋といってもサツマイモのように甘くないから、年中、甘味不足だ。

 果物なんて森で見つけた日には戦争が起きるぞ!


 おっと国の話だったな。


 この国はバラド王国という。

 戦争で領地を得たバラド伯爵がこれまた力で国をもぎ取った新興国だ。


 んで、その王となったバラド伯爵が死んで、次代のはずの王太子が武勇を誇る3男に内乱の末、戦場で殺される。ついでとばかりに有能な武官、文官が大量に殺された。


 さらにさらに王太子の嫁子供は37564……うん、ミナゴロシという話だ。

 怖いねぇ〜。


 その3男はバラド王国を継ぎ、父王の側妃を嫁にして自らの子を産ませた。

 義母を嫁にして子供ができた、だとぉ!?

 な、なんてうらやま……恐ろしい奴ナンダ(声震え)


 それがおよそ10年ほど前のことだ。


 そんな王が納める国だからというか、僕たちの暮らしぶりから分かる通り、政治はうまくいってない。


 物語の英雄とかになると、だいたい当人が優秀か周りの人が優秀かになるんだけど、これまた現実は世知辛い。

 王都周辺中央部では権力闘争が繰り広げられ、国の崩壊すらも近いという噂だ。


 地方に当たるこの町に戦争の影も形もないのがせめてもの救いだな。

 皆等しく貧しいせいで立身出世の夢も見れないが……救いか?


 あとあまりにも救いがないせいか、前王太子の息子が麗しき旅の聖女と共に今も生きていて、虎視眈々と王位奪還を狙っているのだ、とかそんなウワサまである。


 それって滅ぼされたあの人が実は生きて、どこかの大陸の覇者になってましたー、みたいな話。

 もはやウワサというより、当時の人の願望が作り出した伝説レベルである。


 期待するだけ無駄である。

 僕は現実主義者な奴隷なのだ。


 周辺国については、王都より離れ地方であるこちら側に近い隣国にあるのがメーリベール皇国。

 賢王リュシュトが治める国で良い国だから、そちら側から軍が攻めてくることもないし、他の地域よりも盗賊は少ない。

 バラド王国併呑へいどんしてくんねぇかなぁー。

 いらないだろうねー、そんな厄ネタな国。


 バラド王都側寄りの隣国はシュバリエ傭兵国。

 その名の通り傭兵が起こした国で暮らしはバラド王国よりはマシだが、年中、戦ばかりしている。

 バルト王国とも小競り合いをいつもしてる、ずっとしてる。


 あとバラド王国ではエルフもドワーフも獣人も純人族も種族によって差はない。

 そもそも血が混ぜこぜで区別しても仕方がないことのほうが多い。

 僕自身も実際のところどの種族の血筋なのか、さっぱりわかっちゃいないし。

 推定人間。


 しかし他の国では純血主義を謳い、民族主義差別を生んで内紛に発展したりもする場合もある。


 仕事は師弟制していせいでギルドが仕事の差配をしているので、その枠内に入り込めない我ら奴隷たちは仕事を選ぶ余裕はほぼない、などなど。


 この奴隷屋敷の子供たちはそれらを文字も含めて、強欲ババアからの教育を受けて奴隷として商品価値を増していく。

 それにしても強欲ババア多才だな、おい。


 あ、これ鉄鉱石のカケラじゃね?

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