第6話
短い睡眠の中で、アロイスは幼いころの夢を見た。
年賀競鳥の人混みの中、はぐれてしまった時の記憶──大鳥の飼育を生業とする職能集団にとっても、年賀競鳥は晴れがましい行事であった。一族揃って年賀競鳥を観覧にいき、そしてそこで幼いアロイスは迷子になった。
見上げるばかりの背丈の見知らぬ大人たちがひしめき合って、アロイスの視界の全てを塞いでいる。人垣の向こうにはさらに人垣があり、それはこの世界の果てまで続いているかのように思えた。
誰も足元なんかに目をくれない。押されたり、蹴られたりしながら、アロイスは逃げまどっていた。
いままさに行われている祝祭と同じ空間にいながらも、アロイスは孤独と恐怖の中にいた。
だれも助けてくれない、だれも自分のことを見つけてくれない──
しかし、その永遠にも思える息苦しさは、突如として終わる。
「アロイス!」と、その呼び声は群衆のざわめきを貫いてやってきた。
人垣をかき分けて現れたのは、幼いころのカミルの姿だった。利発な少年のその瞳は、まっすぐにアロイスを見つめている。
アロイスの胸の中にあった寒々しい気持ちが、途端に溶けて消えた。代わりにこみ上げてきたのは、暖かい安堵感だった。
カミルさえいれば何も問題がない、と幼いアロイスは思った……
アロイスは目を覚ました。勝負の日の朝だった。
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