第23話 相席って相馬くんと篠生川さんだったんスか?
日曜の午後、ユーキと花巻は街の喫茶店で談笑していた。
ユーキはこの日、合気道の初段試験に合格し、晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
花巻は合格祝いに、新しくできたカフェで飲み物を奢り、二人で席につく。
混んでいる割に四人席に通されたのは、花巻の体格がデカいからかもしれない。
「ここめっちゃ混むのに、座れて良かったッス」
「へぇ。それより珍しいな、こういう店は好きなのか?」
周囲を見渡すとカップルばかりだ。
頼んだアイスコーヒーのカップに手を伸ばすと、「ちょい待ちッス」と止められる。
パシャッとシャッター音がユーキのスマホから鳴った。
「サーセン、もう飲んで大丈夫ッスよ。で、こういう店が好きかッスけど、ほら」
スマホの画面を見せてくる。
アイスコーヒーをすすりながら、インスタに載った数々の写真を眺める。
確かに食べ物や飲み物がたくさん収められていた。
「好きなのは充分わかった。ん?」
食べ物と飲み物の他に写っていたのはユーキの自撮りのようだ。
写真で見ると実物とはまた違った可愛らしさがある。
「あにき、まじまじと見すぎッスよ。なにか食べたいものでも……あっ」
手元に戻したスマホをぎゅっと手で隠した。
ジトッとした目でこちらを睨んでくる。
「ぼくの自撮り、見たッスか?」
「ああ。よく撮れてると思うぜ」
「なに見てるんスかっ、あにきは!」
ふい、とそっぽを向いてパフェの山頂に乗ったアイスをバクバクと食べ始めた。
が、すぐにこめかみを抑えて「――っ」と声にならない叫びを上げる。
「ははは、ゆっくり食えよ」
そんな時、店員がやってきて、相席しても良いか尋ねてきた。
外には行列が出来ている。
たしかに四人席は申し訳ないと思い、快諾する。
「あれ、お前ら……」
「ん? 相席って相馬くんと篠生川さんだったんスか?」
その二人はなんと相馬と篠生川だった。
相馬はシンプルな服装にも関わらず、整った顔立ちと均整の取れた体型のせいでモデルのように決まっている。
その姿に、店内の客、特に女性客の視線が釘付けになる。
派手な服装で背伸びをしているような小柄な篠生川が寄り添っていた。
篠生川がユーキを見つけると、相馬の腕に肩を組んで声をかける。
「あら、デートの邪魔かしら? あたしは構わないんだけどぉ」
相馬は少し残念そうに肩をすくめた。
「結城さんって彼氏いたんだ」
「ち、違うッス!」
食い気味に否定されてちょっと胸がチクリと痛んだ。
「えっと、あにきは……」
「え、兄妹なの? えー、全然似てないけど」
花巻を置いてユーキと話を進める相馬の馴れ馴れしい感じが気に入らなかった。
「ユーキは俺の幼馴染で、兄弟みたいに仲良くしてるんだ」と、あえて分かりやすく説明し、「なあ、一年の相馬風助?」と軽く尋ねる。
「あっ、花巻先輩。あの時はすいませんでした」
「おう、いいよ。まあ座れや」
頭を下げる相馬に先輩風を吹かせるが、ユーキを前に格好つけたかったのは言うまでもない。
ユーキが気を利かせて席を移動し、ユーキは花巻の隣に座った。
正面に相馬が座ったので、目のやり場に困って向いた先で篠生川と目が合った。
「あの時って何ですかぁ?」
甘い声で尋ねてくる篠生川だが、ぜんぜん目が笑ってない。
説明の仕方を間違えると殺されるな、と慄きながら経緯を教えてやる。
「――それでだな。つまり、相馬の勘違いでユーキを連れ去っちまったんだ」
話を最後まで聞いた篠生川は「あーね」と理解を示した。
「小羽ちゃん、ふーくんが驚かせてごめんね~」
「い、いえ。ぼくは別に」
ユーキが小さく手を振って控え目に否定すると、篠生川がニマリと笑った。
「それじゃあ私たちも注文しよっか、ふーくん?」
細長いメニュー表をテーブルの真ん中で広げた。すると、メニュー表はユーキと篠生川の間に横たわる仕切りの役割を担い、ギスギスとした空気が漂う。花巻は篠生川の意図するところが分からなかった。
目の前でイチャつく二人を眺めていると、ふいに篠生川がユーキを一瞥する。
「あ……」
ぽつりと傍らから声がして、横を向くとユーキが顔を伏せていた。
ツヤのある黒髪が天使の輪っかみたいに光を反射している。
「あ、あにきも、パフェひとくち、どうッスか?」
ユーキらしからぬ言葉が飛んできた。ご丁寧にパフェの長いスプーンの先にアイスを乗せて、こちらに差し向けてくる。
これを食べたら間接キスになるだろう、などと一瞬だけ脳裏をよぎるが、こんな不自然なユーキは見てられない。
「いらん」
「そっ、そッスよね」
ユーキと篠生川から始まったギスギスした空気が、花巻とユーキの間にも伝播してきた。
それを察したのか、相馬がふっと笑みをこぼし、茶化す口調でツッコミを入れる。
「断られちゃったね、結城さん」
「今のぼく、シャバかったからしょうがないッス」
「シャバい?」
「不良らしくないってことッス」
「へぇ。でも、結城さんと花巻先輩が本当に付き合ってないってのはわかったよ」
涼しい顔で相馬が納得した感を見せる。
篠生川がギロリと花巻を睨んだ。
……なんでだよ。
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