side結城 陽キャに褒められると世界に認められた感がして嬉しい
学校の教室は、一見するとにぎやかで活気に満ちているように見える。
しかし、その中で孤立してしまった
ぼくは周囲の生徒たちが友達同士で楽しそうに話したり笑ったりする姿を見て、心がざわついた。
彼らと同じように、自分も友達ができれば良いのに。
しかし、ぼくは友達をつくるきっかけを逃し続けていた。
最初はバスケ部の友達グループに入っていた。
バスケは好きなわけではなかったが、運動神経が良いため、他のメンバーからも歓迎されていた。
しかし、ぼくにとっては興味のない活動であり、次第に距離を置くようになった。
女子部や男子部からも声をかけられたが、ぼくにとってはそれぞれが合わなかった。
スポーツに興味がないぼくにとって、マネージャーとしての活動も魅力的ではなかったし。
放課後はあにきと会う予定で、その時間を大切にしたかったんだ。
一週間が経ち、ぼくはクラスの中で一人ぼっちになってしまった。
どうすれば友達を作ることができるのか。
そんなのぜんぜんわかんないよ、あにき……。
◆
美術の授業の日。
静かな校舎の外で、ぼくは一人スケッチをしていた。
選択科目の美術はちょうどよい息抜きであり、心の安らぎを得る時間になっている。
日の当たる芝生ではなく、校舎の裏手にある暗くて湿った場所を選ぶ。
他の生徒たちは明るい場所で楽しそうに絵を描いたり、語り合ったりしているが、ぼくは遠ざかっていた。
ぼくは一心にペンシルを動かし、目の前の風景を紙に移していく。
周囲の静寂が、心に穏やかな安らぎをもたらした。
しかし、心の奥底では、寂しさと孤独感が募っている。
そうでなければチラチラと芝生の方に目なんかやらない。
「ねぇ、結城さん」
「ぴっ!」
びっくりしすぎて変な声でた。恥ずかしい。
振り向くと、お手上げ状態の男子がいた。
まるで警察に銃を突きつけられた強盗犯みたいだと思ったが、よく見ると犯人面とは思えないほど整った顔立ちをしている。
ぼくをまじまじと見るなり、ぷっと吹き出した。
なにわろてんねん。
「はは、ごめん。変な声でてたから」
それはそっちが急に話しかけてくるからじゃん。
「えっと」
「相馬風助。この前はごめん!」
そうだ、相馬くんだ。
言い淀んでいた所をすくい上げるようにして回答した彼は、前にあにきをナンパだと勘違いした男子生徒だ。
顔の前で合唱を作って前屈み程度の頭を下げる。
「勘違いして俺、結城さんの都合とか考えてなかった」
前にも事情を説明したはずなんだけど、いまいち信じてもらえなかった。
改めて謝りにきたということなのだろう。
「あー、はい」
会話が終了する。
……。
あまり喋った事のない相手と二人きりだと寄る辺ない気持ちになる。
だが、それもつかの間。
相馬くんが「隣いい?」と申し出たので、「うん」と反射的に返事してしまった。
陰キャは陽キャを否定できないから仕方ないね。
「本当にあの不良の人と仲良いの?」
彼が隣にしゃがむが、思いのほか距離が近くて領域を侵された気分になる。
当てつけに答えてしまう。
「はい。ぼくは」
あにきの弟分と言おうとして、今朝のやり取りを思い出す。
そういえば、『学校ではあにきとの関係は秘密にするッス』と約束したばかりだ。
「それはちょっと……」
「へぇ」
相馬くんは興味深そうな返事をした。
しばらくして互いに絵を進める方へ手が動き、相馬くんは「できた」と絵を見せてくる。
絵の感想を求められてもなんて言ったらいいのか分からない。困る。
「え? は? え?」
陰影で頬の輪郭をなぞった横顔は、伏せた目の描写も実に細かい。
有り体に言えば上手い絵だった。
というかなんでぼくを描いてるんだよ。
「どう? けっこう上手いっしょ」
屈託のない笑みを浮かべる様子に彼の根っからの明るさを感じた。
「あ、はい」
なんだか住む世界が違うな。
別に最初から分かってるんだけど落ち込む。
目線を落とすとスケッチブックに自分の絵が描いてある。
「結城さんは何を描いたの?」
「えっ」
人様に見せられるような絵じゃない。
隠そうとしたが、肩が触れ合って、硬直してしまった。
相馬くんは大して気にもせず、頬と頬の間が約10センチの距離になった。
「おぉ、仕事がんばってるありんこ描いたんだ」
「え、はあ、はい」
蟻に運ばれる羽虫の死骸の方を描いたつもりだった。
「結城さんは独特の世界を持ってるんだなー」
たぶん褒められた気がする。
陽キャに褒められると世界に認められた感がして嬉しい。
「ぇへぇへ」
頬がゆるんでしまったので、頭をかくフリをして腕で顔を隠す。
相馬くんは「よーし、そろそろ戻るか」と背伸びをした。
ぼく的にも久々にグッドコミュニケーションが取れた気がして満足感がある。
あにき以外でこれほど長く人と会話できたのは久しぶりだ。
だが、それは完全なるぼくの思い込みだったと知る。
なぜなら相馬くんと一緒に美術室に戻った途端、どこからか「あの二人なんで一緒なの?」という女子の囁き声が聞こえてきたからだ。
取り返しのつかない地雷を踏んだ気がした。
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