第3話

「どうしたよフォンス?俺が怖すぎて声も出せないか?」

 話しかけてきたのはウノームの取り巻きの一人である子爵家の男の子だった。

 名前もフォンスは覚えていないが、その外見は一度見たら忘れられない。でっぷりと贅肉で覆われた腹、皮脂で輝いている顔、肉で細くなっているのに分かるほどのいやらしい目、どれをも持っている他者を寄せ付けない不快な外見であった。

「名前を忘れた、誰だ?」

 フォンスはしばし考えたが、やはり名前が出てこなかったので正直に名前を忘れたことを告げる。

 その瞬間、目の前の男は顔を真っ赤にして暴れ出した。地面を踏みつけるたびに腹の肉がぶよぶよと波打っていく。

「俺の名前を忘れただと!ふざけるな!」

 そして太った男児は、手から液体を放出した。この者のスキルである『悪臭汗』を発動したのだ。

 その液を浴びないように軽やかにフォンスは回避すると、メルティを抱えて自身に速度強化魔法をかける。

 フォンスはそのまま、太っている男児から逃げていくのであった。


「サクセアから逃げるとか本当に弱いんだ……」

「でも逃げ足だけは凄いね……スキルが『逃げ足』なのかな?」

 フォンスが去っていった後で、学園の生徒は口々に噂をし始めた。どれもフォンスを褒めるものではなく、フォンスが逃亡したことに対する罵倒であった。


 そして次の日、入学式が始まった。壇上では入学生代表としてウノームが話している。

「今日この日、この学園に入学できたことをうれしく思います。私もこの学園の一生徒として頑張っていきたいです。入学制代表ウノーム・ダイラム」

 ウノームは5年の間に外面はさらに良くなっており、それと比例して周囲への被害も増えていった。そのすべての罪はフォンスが背負っているので他家から見ると完璧な貴公子となってしまう。

 フォンスはウノームの外面の良さに感嘆してしまう。

 その後はフォンスとウノームの祖父に当たる国王による挨拶も行われたが、どうでもいいのでフォンスは聞き流しておいた。

 一度会ったことがあったのだが、その際に直感的に敵だとフォンスは感じたのでそれ以来会っていない。


 入学式が終わり、クラス発表が行われた。

 この学園ではテストの成績によってクラスが分かれる。と言っても、侯爵家以上の貴族は金を積んで最高ランクのクラスにいける。

 そのため、ウノームはAクラスとなっていた。能力は調子がいい時でもCクラス下位くらいだが、金の力で上がったようだ。

 フォンスは手を抜いてテストを受けたのと、ダイラム家からの圧力で最低ランクのEクラスとなっている。圧力が無ければCクラスにはなれただろう。

「やっぱあいつゴミじゃん」

「だから婚約者を奪われるのよ」

 周囲の人々はフォンスを嘲るように笑っているが、フォンスは誰とも仲良くする気はないのでさっさとクラスに行った。

「やあEクラスのみんな、僕がこのクラスの担当となったネガー・メロイです。このクラスはほとんど平民しかいません。まあ一人公爵家でありながら来ている落ちこぼれがいますがね!」

 ネガーによる挨拶で、周囲の平民は笑い始めた。このクラスに貴族はフォンスしかいないので誰のことを言っているかは一目瞭然である。

 その日は学園での生活についてや、学園の設備紹介だけで終了した。

 フォンスは授業が終了すると、すぐに自室に戻った。周囲の平民はフォンスを恐れて話しかけてこないので楽であった。


 次の日から、授業が始まった。

 この学園では貴族が箔付けに通うだけの意義しかないだけあって授業の質は微妙だ。最低限の歴史と読み書きや算数を午前中に教わり、午後からは実技か授業が存在しないといったスカスカな感じである。

 フォンスは大体の知識を本で身に着けているので授業は退屈であった。ウノームは馬鹿なので自分の名すら書けないため大変かもしれない。

 また、フォンスが授業を嫌うのはもう一つの理由があった。

 このクラスの教師であるネガーは色眼鏡で生徒を見ており、貴族でありながらEクラスとなったフォンスを馬鹿にしているのだ。

 フォンスの知能では小テストは満点なのだが、それはカンニングしているためだとネガーは思っているのでずっと0点を付けられている。そのため、フォンスからすれば貴族の義務でこの学園に来ているだけなので、無価値な時間でしかない。

「今日もフォンス君だけ0点でした!平民の皆さん、これが貴族の落ちこぼれです!」

 そしてネガーは小テストの採点後には決まってフォンスを馬鹿にする。これが平民ばかりのクラスをまとめる手腕なのだろう。

 最近では、平民もフォンスを馬鹿にするようになってきているのでネガーの手腕は確かなのかもしれない。

 午前の授業が終わったフォンスはすぐに自室に戻る。入学して今日で1カ月経っているが、友人などできる訳が無かった。


 フォンスのいなくなった教室では、平民によるフォンスの悪口大会が繰り広げられる。

「あいつ澄ました顔してんのに馬鹿だよなぁ」

「一回も話しかけてこないし、俺たちを見下してんだろ。貴族らしいプライドがあるのが腹立たしい」

「でも噂とは違って、私達女子に馴れ馴れしくしないね?」

「平民には下賤すぎて手を出せねぇとか思ってるに違いない!」

 その悪口大会は休憩時間いっぱいまで続くのであった。


 午後の授業は採取実習であった、学園の中にある森の中で素材を集める授業だ。

 今日は薬草の採取だが、フォンスはこの授業も憂鬱であった。

 フォンスからすれば薬草など簡単に採取できる。そのため、規定量の10本を集めた後は誰もいない森の奥で剣を振るって時間を潰す。

 そして、制限時間10分前に戻ると薬草をネガーに手渡す。

「……フォンス君、駄目じゃないですか?これは君が摘んできた物ではないでしょう?ほら君に奪われたって泣いている子がいますよ?」

 ネガーが指差した先には、別のクラスの子が泣いていた。いつもフォンスは自力で取っているのに、こうやって実技の点数を0点にされるのだ。

「フォンス君、今日も君の点数は0点です。こんなことをせずに自力で頑張りなさい!」

 ネガーはフォンスが言い返さないと知っているので、強気な態度に出てきた。

 フォンスはちょうど今日は虫の居所が悪かったので、薬草を地面に放り投げて踏みつぶした。薬草は潰したりすると薬効が無くなるのでこの薬草はもう使えない。

「フォンス君!何をしているんですか!?薬草は貴重なんですよ!」

 フォンスは慌てだしたネガーを無視して帰っていくのであった。

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