第13話
神楽坂での日々、ワイングラスを傾けながら聞いた話の断片や、通り過ぎた無数のスーツ姿。そこにいた自分が本当の自分だと信じたいけれど、同時に、高知の生活が自分の何かをあぶり出しているのではないかという疑念も湧き始めていた。それが由梨枝によってついに自覚させられたのだ。
日々働く中で、地元のお祭りや風景、宮崎で過ごしたあの湿気の多い日々を思い出させられていた。東京で無視してきた「地方」とのつながりが、再び自分の中に忍び込んでくる。それを振り払おうとすればするほど、自分が何に抗おうとしているのかがわからなくなっていった。
そんな心境の中で由梨枝から突きつけられた現実はかなり深く刺さった。
夜の帯屋町を、何かに導かれるように歩いていた。通りの喧騒は徐々に落ち着き、いくつかの店はすでに暖簾を下ろし始めている。それでも、夜の空気をじんわりと温めるように、ふと視線を横にやると、細い路地の奥にぽつんと灯る明かりが見えた。小料理屋の暖簾が風にそよぎ、その隙間から、控えめながらも温かみのある光がこぼれている。
吸い寄せられるように扉を押し開けると、ふわりと出汁の香りが鼻をくすぐった。静かながらも心地よいざわめきが店内に広がり、カウンター越しに大将の穏やかな声が響いている。数人の常連客が変わらぬ日常を楽しむ中、奥のテーブル席では観光客らしき男女三人組が地元の味に舌鼓を打っていた。
目をカウンターに移すと、そこに「東京」がいた。
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