第10話

試用期間を終え、仕事にも少しずつ慣れ始めた頃、私は休みの日は毎週のように高知龍馬空港から成田空港までジェットスターで行き来する生活を送っていた。金曜日の午後お休みを取り、15時前の飛行機で成田空港へ。お金があればJALとかANAとかに乗って、羽田へ飛びたいが、仕方ない。荷物は小さなキャリーバッグに最低限の旅行セットを手に飛行機に乗り込む。到着するとすぐに電車に乗り込み、東日本橋で都営新宿線に乗り換えて神保町の安宿にチェックインすると荷物を置いて夜の街へ。たまにヘアサロンのためだけに東京に来ることもあるけれど、今日はどうしても飲みたい気分だった。


神楽坂の石畳を登ると見える、いつもの街並み。何も変わっていないはずなのに、酷く輝いて見える。裏神楽で1人飲んでいると、男性が声をかけてきた。体にぴったりとフィットしたチャコールグレーのスーツに、まるでさっきクリーニングから受け取って着ているかのようにピンと襟の立ったワイシャツ。靴のことはよく分からないけど、多分いい靴なんだろう。背筋も伸びていて、東京を感じさせる。


(どうしてこんな人は高知にいないんだろうか)

そう思いながら、白ワインのグラスを傾ける。適当に一緒に飲んだ後、家に誘われたが、実家に住んでて親が厳しい、と伝えるとせめて連絡先だけでも、と言ってLINEを交換するのが毎回のパターン。もう何回もこのやりとりをしているが、大体の男の人はその直後だけマメに連絡をくれた後、本当は高知にいるせいで誘いに乗らない私を見限って連絡をよこさなくなる。そんな一期一会を私は楽しんでもいた。


日付が変わっても静まらない神楽坂の浮揚した空気に後ろ髪引かれながら、タクシーに乗り込みホテルへ帰る。そんな夜を過ごして翌日の昼、成田から透明なビンの底へ帰るのだ。そんな生活をしていたので、毎月の給与はわずかに貯金ができる程度でほとんど使い果たしてしまっていた。

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