第8話

高知支店での勤務初日の夜、歓迎会を終えて、2LDK6万5千円の家に帰る。真っ暗な部屋にはまだ22時にもなっていないのに、月明かり以外の光は入らない。駅前の無印良品で買った新品のコーヒーフィルターにお湯を少しずつ注ぎ、抽出されるコーヒーがポットに一滴ずつ落ちていくのをぼんやりと眺めていた。


歓迎会は、久々の新人配置ということからか、どこかぎこちなさをはらんで、ひろめ市場に程近いわら焼き屋で開催された。方言混じりの会話、甘い醤油、土と草とがブレンドされたような香り。

全てが、宮崎を思い出させるようで、更に私を失望させた。出身、大学は学生時代どんなことをしてきたか、趣味、お酒を飲むのか、など当たり前に聞かれることや言われることが、どうも地方独特の文化であるかのように聞こえてきて、耳を塞ぎたくなった。

少しでも都会に近い空気を感じていたくて借りた高知駅徒歩3分の家に帰る道で、ナンパされた時にも閉口した。


東京では考えられない、方言じみたセンスのない誘い口。安いたばこと日本酒の匂いをまとわせたユニクロのウルトラライトダウンに、だらしなく履きつぶされたティンバーランドの茶色いブーツ。髪はツンツンに立っているのに前髪はだらしなく目にかかっていて、高校生がそのまま大人になったよう。

そんな姿を一瞬でも視界に入れたくなくて、足早に立ち去る。

2分後に、まるでドッペルゲンガーかのような同じシルエットの人が何か声を掛けてきたような気がしたが、いつも私が自分で話している「東京出身」という言葉が繰り返し脳内に流れるのに身を任せていた。

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