第7話
「高知支店」
紙に書かれたその文字を目にした瞬間、全身の血が一気に引いていくのを感じた。耳鳴りがして、目の前が真っ白になる。喉の奥から何かが迫り上がってきて、叫び出したいのに言葉が出ない、音にならない。足早にトイレへ向かい、鏡の前で深呼吸する。この感情がどういったものか分からず、ただ泣きそうになるのを必死でこらえた。
「東京人」
自分にいつも問いかける声が頭の中でリフレインしていた。
研修所に戻った私を同期が心配そうに見ている
「地方なんて初めてだろ?修行と思ってさ!東京に遊びにくることあったら、みんなで飲もうぜ!」
無事本部の運用部門に配属になった哲也の言葉に、イラついてしまった。どこかよくわからない四国の県に配属された私を蔑んでいるんじゃないか、馬鹿にしてるんじゃないかという疑心に駆られた。
その日はGWの前の日だったこともあり、さすがに神楽坂の行きつけの店に駆け込んだ。
神楽坂の夜、私はいつも自由だと思っていた。けれど「高知支店」という言葉を前にした今、その自由がどれほど脆いものだったのか、痛いほど思い知らされる。
その日飲んだ赤ワインはいつもより苦くて、でもお酒を飲まずにはいられずに、ボトルを飲み干した後、自宅に帰って全部戻してしまった。
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