第5話

東京の街並みは息を飲むほど美しかった。夜、神楽坂の石畳を歩きながら、街路樹に吊るされたイルミネーションがキラキラと輝くのを見ていると、自分が「特別な場所」にいるような錯覚を覚えた。でも、同時に胸のどこかが重くなっていくのを感じる。東京での生活は華やかだったけれど、どこか空っぽだった。宮崎にいたころの自分を見つめ返すたび、「これが私が夢見た世界なの?」と問いかけずにはいられなかった。


それでもテレビで地方の特集などをやっていると思わずチャンネルを変えてしまう、自分を俯瞰的に見てしまって、嫌な気持ちになる。実家には「今度帰る」と言い続けて結局4年間一度も帰らなかった。


そんな生活をしていたからか、もともとそんなに勉強も課外活動も真面目に取り組んでいなかったからなのかは今でもわかっていないが、新卒の就職活動は上手くいかず、両親と大学の先生に泣きついて、1年だけ留年をさせてもらった。運良くすぐに保険会社の内定を貰い、両親には「生命保険会社で営業の仕事をすることになった」とだけ、メッセージを送っておいた。卒業式の日程を聞かれたが、元々出る気はないし、晴れ着にも興味がなかったので、出ない、とだけ返事をし、その後の返事は今も確認していない。

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