第3話
そんな私が東京への憧れを持ったのは、映画がきっかけだった。
宮崎市に3つしかない(たまたま遊び場にしてたイオンモールにあったのだが)数少ない、薄暗い映画館で初めて見た東京の夜景は、星空よりも眩しく輝いていた。街灯に照らされた濡れたアスファルトの路面、ビルの窓から漏れる無数の明かり、夜空を切り裂くように走る電車。そこに生きる人々は、みんな自信に満ち溢れ、何かを掴もうと足早に歩いていた。
地方の人々が持つ都会への偏見とは正反対の「希望」に溢れた場所。
最も強く心を打ったのは、周りの人の無関心さであった。安っぽい恋愛映画の中で、道行く人々に失った彼女のことを尋ねて回るのだが、誰も相手にしない。それどころかまるで見えていないかのようにして、通り過ぎていく。その無関心さと対比されて、東京の夜景の美しさは一層輝いて見えた。ここが私の行くべき場所だ、そう確信した。
別に東京で一旗上げたいとか、そういうのはなかった。両親は数代続く不動産屋で、正直なところお金に困ることはなかった。もちろん勉強は高校でも5本指に入るくらいだったし、模範的な高校生として、両親には恥をかかせないように生きていた。それに実家も宮大に進学した4つ上の兄が継ぐことになっていたので、宮大はおろか熊大、九大など、宮崎のちょっと賢い女の子が受ける大学を受けずに、東京の大学一本に絞ることを告げた夜も、最初は反対していたものの、私の性格と期待を理解してか、いつも最終的に納得してくれた。それでも合格発表をスマートフォンで確認した時、ほんの少しだけ後ろめたさも感じた。
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