黎明

のちにフランス大統領のマクロンのなりきりとして活動することになる「彼」は、2020年7月、ふと何気なくTwitterをぼーっと眺めていた。すると「彼」のタイムラインに、ボリスなりきりの「連立方程式の解き方を65歳で初めて理解したボリスジョンソン」というツイートが流れてきた。「彼」はこれに感銘を受け、自分もこういうなりきりをやって面白いツイートをしたいと思い立った。そこでさっそくボリスに、「すごい発想で面白いです!俺も誰かのなりきりをやりたいんですけど誰がいいと思いますか?」と質問のリプを送ったところ、ボリスは「ほかにも有名な人はいるし、誰でもいいと思いますよ!」と返事をよこしてくれた。

少し考えた彼は、その場でフランスのマクロン大統領のなりきりになることを決意し、すぐさまアイコン名前プロフィールを変え、マクロンなりきりとして生まれ変わった。


すぐ後にロシアのプーチンのなりきりとして活動することになる「彼」は、この少しあと、マクロンとボリスの絡みを見て、ああ自分もこの輪に入りたいなと思い立った。そこで「彼」はすぐさまプーチンのなりきり垢を作成し、その輪に加わった。


イタリアのコンテ、アメリカのトランプ、日本の安倍晋三、カナダのトルドーなど多数のなりきりも、このころ誕生した。


このような主要先進国の首脳のなりきりが7月下旬から8月上旬にかけて増え、ついにドイツのメルケルを残すのみとなった。そこで、例の連立方程式の万バズによりフォロワーが1000人を突破していたボリスが、「メルケルになる人いない?G7コンプリートまであと一人なんだよ」と広く発信すると、すぐさまメルケルなりきりが現れ、8月7日をもってG7首脳がすべて勢ぞろいすることとなった。彼らは「TwitterG7」と呼ばれることとなった。

これを機に、首脳なりきりが集うDMグループである「首脳会談」が作成され、混沌としつつも楽しいやり取りが内部で繰り広げられることとなった。

「チンポを見せろ安倍晋三」などは序の口であり、はたから見ればどぎついと思われるようなハッシュタグなどが大量に考案され、数か月の間大盛況をほこった。


またこのころ、首脳直接のなりきりではないものの、国家そのもののなりきりであり今後長きにわたり現在まで界隈を支え続けることになる中学一年生の「ロシア」も現れ、彼もまた首脳なりきり界隈の輪に入り、憩いのひと時を分かち合う仲となった。


8月下旬になると、ボリス、マクロン、プーチンの3人が、特にフォロワーが突出して多くなっていた。彼らは、健全な競争と界隈の発展のため、互いのフォロワー数を競い合うこととなった。国家元首が何か争いごとを起こすのだからというボリスの提案で、この競争は「戦争」と呼ばれた。なおのちに似たような競争がなりきり界隈で再度勃発したが、この際の呼称がこちらの競争にも遡及適用され、現在では3人のこの競争も「フォロワー戦争」と呼ばれている。


3人は互いに高めあい、ネタツイなどをして、順調にそれぞれフォロワーを増やしていくこととなった。その一方で、TwitterG7の他の面々は、徐々に浮上が少なくなり、やがて音信不通や凍結といったことになっていった。

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