第五章 『織られる記憶』

 時が流れ、フレペは十五歳になっていた。その手には、確かな技術が宿っていた。


「フレペの織る文様には、不思議な力がある」


 村人たちがそう噂するようになっていた。確かに、フレペの織る文様には、独特の深みがあった。それは、二つの時代の記憶が織り成す世界だった。


 母から受け継いだ伝統的な技法と、研究者としての分析的理解。その両方が溶け合い、新しい表現を生み出していた。


「これは、私の見たことのない文様ね」


 ある日、母がフレペの織った反物を見て言った。


「でも不思議と、とても懐かしい気がする」


 それは、フレペの中の二つの記憶が作り出した文様だった。伝統的なモレウ(渦巻き)の中に、現代的な解釈を織り込んだもの。


 噂を聞きつけた和人の商人たちが、フレペの織物を求めて訪れるようになった。


「これほどの織物は見たことがない」


 彼らは口々にそう言って、高値で買い取ろうとした。しかし、フレペは商売目的で織っているわけではなかった。


「私の織物は、カムイたちとの約束を記すためのもの」


 フレペはそう答え、必要以上の取引は断った。その態度に、母は満足げな表情を浮かべた。


「よく分かっているわね」


 織物に込められた意味を、フレペは身をもって理解していた。それは単なる技術でも、商品でもない。魂の記録であり、カムイたちとの対話だった。

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