【小さじ1と半分】心霊スポット後日談

 「溜め息の理由」でお話した、心霊スポットの古いトンネルへのドライブ。このお話には続きがあります。


 男三人、女の子一人の会社の同期で向かったそのドライブでは、噂になっている「トンネルに出るずぶ濡れの女性」を見る為のものでした。

 そして、前話をお読みいただいた方には既にご存知かと思いますが、何も見る事は出来ていません。


 ですが、なにもなかったわけでもありません。


 バカな話をしながら山道に入り、それなりに緊張感が増してきた頃、運転していたペコ沼(仮名)が、急に声を上げました。


「ヤバい…胸、胸がぐーって押されてる!」


 ペコ沼は、同期でも群を抜いてビビりでした。

 心霊スポットの話が出た時も最後の最後ま嫌がり続けましたが、説得に折れて渋々車を出していたんです。

 普段は底抜けに明るいのですが、とにかく臆病で、残業の帰り道、暗がりからひょっこり現れた猫に文字通り飛び上がったりする肝の持ち主でした。


そんな彼なので、車の中で声を上げた時、私を含めた残り三人は大笑いしました。


「まぁた始まったよ、ペコ沼のビビりが」

「本当に止めて?私まで怖くなっちゃうじゃん」

「お家芸もここまでくると見事だよね」


 そう言って笑う私達をよそに、彼だけは焦った口調で続けます。


「いやマジで!マジなんだって、これ行かない方が良いんだよ、来るなって言われてんだよ!」

「はいはい、分かった分かった」


 口々に好き勝手な事を言いながら、車はトンネルに到着し、そのまま何事もなくドライブは終わりました。


 それから十日ぐらい経ち、連続残業がようやく終わった日、帰りにスーパー銭湯に行く事になりました。

 メンバーは先輩や後輩含め全部で五人。その中にはペコ沼もいました。


「そろそろ倒れるかと思った」「腰がしんどい」…皆でそんな話をしながら脱衣場で服を脱いでいると、「お先ー」とペコ沼が湯船に向かうところでした。


 裸になった彼の胸の真ん中に、うっすらとアザの様なものが見えます。

 小さなモノが扇状に四つ、そして下には大きめのモノがひとつ。


 私にも、隣にいた同期にも、それは掌の跡に見えました。


「おいペコ沼、それってもしかして」


 慌てた私達の顔と自分の胸を交互に見ると、ペコ沼は言いました。


「あ、これ?多分寝てるうちに引っ掻いた跡か何か」


 私ともう一人の間で「こいつダメだ、分かってないや」という結論が出ました。


 そしてペコ沼は今も元気です。

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