第4話

「でもおねえさん、あれがよく魔法陣だってわかりましたね。ただの円形の幾何学模様を描いている美術系おじいさんかもしれないじゃないですか。」


「あれは私も描いたことがあるからね。界隈じゃ有名なやつだよ。」


「えー、そうなんですか。...何の界隈なんですか。」


「悪魔界隈とでも言っておこうかね。何を隠そう、私の瞬間移動能力は悪魔契約によってもたらされたものなのさ。あのご老人たちと同様に魔法陣から悪魔を召喚したのさ。」


「本当ですか。何やってんですか。」


「好奇心というものさ。」


「そうですか。人生楽しんでますね。」


「随分と適当な反応だね。」


「おねえさんのチャレンジング精神への羨望はノート紛失の失望を上回らなかったそうです。」


「羨望と失望を同じ土俵に上げるんじゃないよ。折角、瞬間移動をいの一番に君に披露してあげたというのに。大学院生君は随分と恩知らずなんだね。」


「いい年こいて悪魔と契約する恥知らずに言われたくありませんね。」


「大学院生君、君は悪魔と邂逅したことはないだろう。」


「都合の悪いことを言われたらすぐ話を変えるのはおねえさんの悪い癖でもありますね。お互い様ですね。」


「ふふ、大学院生君と思いがけない共通点ができてしまったね。どうだい、ドキドキしているかい。」


「少なくとも、短所の共通項でドキドキすることはありませんね。」


「私はドキドキしているがね。」


「年じゃないですか。」


「君と違って酸いも甘いも経験した私のピュアハートはデリケートなのさ。ともかく、君は悪魔と初対面だろう。」


「そりゃそうですよ。おねえさんと違って地獄へ行く予定もありませんし。」


「君は悪魔契約を禁忌の類いだと思っているのかい。それは随分と遅れた価値観というものだよ。」


「はあ、そうなんですか。」


「後数年もすれば、悪魔契約は世間一般的なものになるだろうね。」


「随分と何の根拠もなく大胆な発言をするんですね。」


「まあ、是非とも悪魔に会ってみたまえよ。一度悪魔と話したら随分とイメージも変わるだろうよ。」


「そうですか。期待してます。」


「ほら、そろそろ魔法陣が描き終わるよ。」


「ていうか、僕たちおじいさんたちが悪魔呼び出す現場に居合わせちゃっていいんですか?」


「大丈夫さ。私はあのおじいさんたちと知り合いだからね。」


「人脈が広いんですね。不気味。」


「悪魔界隈の同じ思いを志す同胞だからね。実は、大学院生君を今日公園へ連れてきたのも、おじいさんたちが召喚した悪魔と会わせてあげようと思ったからさ。森林浴は二の次ってわけさ。」


「いやー、僕はやめときます。結構ですよ。物騒な感じしますし。このまま自然に囲まれて癒やされてます。」


「悪魔と契約して研究ノートを取り返してもらえばいいじゃないか。」


「やですよ。確か悪魔契約って代償払うんですよね。怖いですよ。」


「どうしても嫌かい。」


「はい。」


「君の安全を保障してあげると言っても?」


「嫌なものは嫌です。」


「ならば強行突破だ。」


デジャヴ。



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