第3話

「あの奇想天外ブランコを作成しただなんて、やっぱりおねえさんはすごいですね。」


「是非その称賛は瞬間移動の時に言って欲しかったね。もどかしいものだね。」


「でもあのブランコ、未だに360度回転を達成した人を見たことないです。」


「私も開発者だが観測したことはないね。」


「でも、ひごろ研究に没頭しすぎているだけで、気付かぬうちにだれか神業ブランコを披露している可能性だってありますよね。」


「一応、あのブランコは360度回転したら特殊な通知が私の管理する端末に来るようになっているから、達成したかどうかはわかるね。」


「あ、そうなんですか、それは見落としがなくて安心ですね。」


「生憎その携帯は今ちょうど紛失してしまったんだがね。」


「タイムリーですね。真実は藪の中ということですか。」


「そういうことさ。」


「今ちょうどなくなったんですか?」


「ああ。」


「なんでそんなことわかるんですか?」


「私とその端末は一心同体だからね。シンクロしているのさ。」


「一心同体ですか。ちょうど切り離されましたけども。」


「無慈悲なものだね。」


「その端末データのバックアップは取ってないんですか?」


「ブランコ通知のためにわざわざバックアップを取っておこうという気力は当時の私にはなかったね。」


「一心同体ならもっと気を遣うべきじゃないですか?」


「仰る通りすぎるね。」


「勿体ないなあ。セキュリティが甘いんじゃないですか?」


「研究データを紙保存している君にセキュリティについて言及されるとはね。」


「朝早いですけど、この公園は賑やかですね。あそこのフリースペースではご老人たちがゲートボールをしていますね。」


「都合の悪いことを言われたらすぐ話を変えるのは君の悪い癖だね。人間関係に比較的恵まれていたら、その悪癖を『切り替えが早い』だの『ポジティブ思考』だの良い方向に解釈してくれる人はいたかもしれないが、私は良くないことだと断言させてもらうよ。」


「流石おねえさんですね。鋭い貴重なご意見をくださる。そういうところが好きだなあ。」


「すぐごまをする方向に切り替えるのも悪い癖だね。」


「ゲートボールジェントルマンたちも喜んでくれてますよ。」


「気のせいだろう。」


「ゲートボールって人生後半戦の方々が嗜むイメージが強いですけど、普通にスポーツとして楽しそうですよね。僕もハマっちゃったりして。」


「ふむ、大学院生くんはあのご老人たちがゲートボールをやっているように見えるのかね。」


「え、違うんですか。」


「太陽がまぶしい時間帯にご老人たちが公園で集まっていると、ついついそれがゲートボールであるというバイアスがかかってしまう。しかし、その本質は案外違ったりするものだよ。まさに我々の目の前に存在しているものがそうさ。」


「よくみたら、木の枝で砂の上に何やら書いてますね。全然ゲートボールじゃなかったですね。」


「あれは魔法陣だね。」


「魔法陣ですか。」


「悪魔を召喚しようとしているんだろう。」


「悪魔ですか。なんだか急に現実離れしましたね。」


「瞬間移動見ておいてそれ言うかね。」


「でも、僕はなぜ悪魔を召喚するのかわかりますよ。」


「ほう。流石大学院生君。ロジカルシンキングはお手の物ということかい。」


「悪魔を召喚して、ブランコを一回転できる超人的身体能力を手に入れようとしているんでしょう。」


「そんなわけないだろ。」


「おねえさんは悪魔的ブランコ演舞見たくないんですか?」


「そんなわけあるだろ。」


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