第2話

「どこですか、ここ。」


「大学近くの公園だよ。大学院生君も何度も訪れたことあるだろう。」


「ああ、よく見たらそうですね。普段は公園にたどり着くまでの経路から移り変わる景色によって公園だと認識していたため、いきなり瞬間移動で来てしまうと意外とすぐ気づけないものですね。」


「大学院生くんは私が瞬間移動を使えることに驚かないのかい。」


「ああ驚いていますよ。」


「その割にはリアクションが薄いね。」


「そうですか、かなり驚いているのですが。」


「お節介かもしれないが、もう少し感受性が豊かになってもいいと思うよ。」


「感受性は豊かだと思いますよ。先日も当たりつき自動販売機が当たったとき泣きましたし。」


「失礼、感受性が乏しいのではなくてバグっているんだね。」


「おねえさんがそう思うならそうかもしれませんね。」


「こらこら、貴重な自己認識フェーズを放棄するんじゃないよ。」


「すみません。実のところ本当に驚いてはいるのですが、現状、研究ノートを失ったことによるやさぐれメーターが限界突破しており、おねえさんが瞬間移動を使えることによる驚きメーターがそれを超えていないため、やさぐれ表情筋が勝利を収めている結果が表現されているのだと思います。」


「私の瞬間移動は研究ノートに負けてしまったんだね。」


「そうみたいですね。おそらく、研究ノートを取り戻せたら驚きのみが残るので、おねえさんの期待通りのリアクションができると思います。」


「それは是が非でも取り戻してすぐさま私の瞬間移動への称賛をいただきたいものだね。私は自分でいうのもあれだが、そこまで自己顕示欲が強い方ではないと客観視しているんだ。しかし、瞬間移動能力が使えることに関しては、さすがに『すごーい』くらいは言われたいものだからね。」


「この公園、久しぶりに来ました。」


「ここのところは随分と研究で缶詰だったからね。自然に囲まれる機会もなかっただろう。こういうときこそ、一旦落ち着こうじゃないか。ほら、ご覧よあのブランコを。」


「あれは、この公園名物の360度回転ブランコですね。」


「従来のブランコは、せいぜい振り子みたいに揺れることしかできないが、あのブランコは回転軸に特殊な作用を施しているため、理論上360度回転することが可能となっているんだ。」


「知ってますよ。随分と説明口調ですね。」


「粋な計らいってやつさ。」


「あのブランコがどうしたんですか。」


「実はあのブランコは私が考案したんだ。」


「ええええーーーーー!!マジですか!!すげえや!!」


「私の瞬間移動は、研究ノートとブランコに負けてしまったんだね。」

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